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過去の清算 1

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屋敷の周りにトラップの魔法陣を展開して、私とミストは家の中で待機するつもりだ。
そのために、必死になって、覚えていた魔法陣を土の地面に杖で描いていた。

「……ダリア様。今、屋敷の中から物音がしました」

ミストが、塀の上からそう言い、思わず杖が止まる。

「……さっきは見なかったの?」
「真っ直ぐにダリア様の部屋に行きましたから、他の部屋は見ていません。ましてや、1階なんて、見ていません」

まだ、魔法陣は完成してない。これだけでは足りない。
急がなくては……! と焦りながらも杖を進めた。

でも、不審者はそんなことを待ってくれるわけがない。
玄関扉が勢いよく開き、男たちが飛び出て来た。
すでに家の中に入られていたのだ。
この古い屋敷なら、鍵も古く壊しやすかったのだろう。

「いたぞ!! やっぱりあの時の女だ!!」

男たち三人が、私の顔を見るなりそう叫んだ。
私を襲った男たちで間違いないのだろう。
心臓が破裂しそうなほど、怖かった。
でも、私とお父様の屋敷に無断で入られたことに腹ただしいものがあった。

この人たちのせいで、お父様に苦労をかけたのに……!

「ダリア様に近づくな!! 汚らしい男たちめ!!」

ミストは、塀から私の前に飛び下り、私に向かって来る男たちに口から霧を吐いた。
ミストは、普通の猫じゃないのだ。

「ダリア様! 今のうちです!」

もう庭中に魔法陣を展開しているヒマは無くなった。せめて、この男たちを捕まえられるだけのものがあればいい。

「誰だ!? 一人しかいなかったぞ!?」
「やめてくれ!!」
「怪我をすれば、俺たちは死んでしまうんだ!!」

男たち三人の叫ぶような大きな声が、霧に中から聞こえた。
霧で視界を奪われた男たちは、ミストが一瞬で霧を吐いた為か、猫が喋ると思わないせいか、私しかいないと思っている。
その霧の中にミストは飛び込み、男たちに牙を向けたのだ。

「自業自得だ!!」

ミストはそう言った。

その隙にもう一つの魔法陣が出来上がった。
ミストが抑えているうちに、もう一つ作ろうとした時に、足を取られてしまう。
屋敷の影に人影を見たからだ。

それは、間違いなく隠れていた男だった。私は、一体何人に恨まれているのか……!?

「この女のせいだ!! こいつのせいで……!!」

片手で剣を振りかざされて、とっさに杖を前に突き出した。それと同時に、男は、出来上がったばかりのトラップに引っかかり、足元から、電撃のような光が男の身体を走ると、痺れたように止まる。

「近づかないで!!」

勢いよく魔法弾を杖から放った。トラップのおかげで、難なく命中する。
それでも、魔喰いの魔法石に魔力を食われているせいで、攻撃魔法なんて使えば、魔力のあっという間に無くなり、その上、弱い魔法弾だ。致命傷にはならない。
それなのに、男は吹っ飛んでしまった。おかしいと思いながら、杖に目をやる。
剣を振りかざされて、心臓が速くなる。

でも、もう一人がその隙に飛び出してきた。眼は血走り、私に怒りしかないようだった。
そして、その男も片手で剣を振りかざしている。

「ダリア様!!」

霧の中から、ミストが飛び出して来た。
虎のような大きな身体になり、その猫よりも増強された前足で男をはじいた。
ミストのこの姿を見るのは初めてだった。師匠がいた頃にミストの本当の姿はこんな可愛い姿ではない……と言っていたけれど。

「ダリア様! 早く捕まえましょう!」
「……はぁっ、はぁ……待って、今するから……」

息が早くなりそうなのを、必死で抑えた。能力を下げているからか、襲われる恐怖からか、やはり心臓が速い。
そして、霧の中から男が一人必死で出て来ていた。
こっちの男は、怯えている様子だった。どうして、男たちは仲間たちだろうに、こんなに様子が違うのか不思議だった。

「や、やめてくれ! 俺たちは助けて欲しいだけだ!!」
「嘘をつくな!! この男たちは、明らかにダリア様に殺気があった! 殺す気で刃を向けたんだ!! 絶対に許さないぞ!! 愚かな人間たちめ!!」

ミストは怒っている。
このまま、かみ殺してしまいそうだ。
ロバートさんは、ノクサス様にまだ、伝えてないのだろうか。
ノクサス様に全てを任せることが出来ずに、過去から逃げてはいけないと思い飛び出してきたけど、このままなら捕まえるどころか、ミストが男たちを許さない。
こんなに怒っているミストは初めてなのだ。

「……っこの女が元凶だ!! こいつのせいだ!!」

ミストと私に、はじかれた男2人は、「こいつのせいだ!!」と座り込んだまま狂ったように叫んでいる。

そして、男2人は懐から出した小さな爆弾を投げて来た。

カッと光ると同時に、ミストが爆風の中から私を咥え逃げた。
小さな爆弾なのに、威力はあるのかおおきな爆音と共に地面が響いた。
空気も振動するように響き、耳が痛い。

ミストは、私を納屋に放り込み、私を隠すために、また霧を吐いた。この屋敷中に庭がより一層濃い霧に包まれていった。


納屋の中で静かに呼吸を整えた。

この納屋は、怖がる私のために、生前お父様が木の窓を全て取り外してくれていた。
扉も、「一つだと不安だろう」と言って、もう一つ作ってくれるほど、私が少しでも不安と恐怖から忘れられるようにしてくれていた。
そのおかげか、納屋の中に光が差して明るい。でも、今は庭中に広がったミストの霧で光も遮られており薄暗い。
ミストは、私を守ろうとしている。でも、「フーッ!!」と毛が逆立っている。

「ミスト、落ち着いて。私は、大丈夫だから……ちょっと魔力が足りないだけだからね。魔喰いの魔法石を早く取り出すべきだったわ」

大きくなったミストに抱きつき、柔らかな毛を撫でた。
怒っているせいか、ミストの毛はピリピリしている。

「……取り出したいのですか?」

大きくなっても変わらない薄い水色の瞳のミストは真剣だった。

「……以前も、苦痛を伴う……と言っていたけれど、もしかしてミストは取り出し方を知っているの?」

「知っています。セフィーロ様に言いつかっています。ダリア様に必要無くなれば取り出してやれと、言われましたから。でも、僕がすると……」

驚きながらミストの話を聞いていると、多くの馬の近づく音がしてきていた。
私よりも先に気づいたミストが納屋の外を見ながら、お尻を上げる。

「ダリア様。馬の大軍です。火薬のせいで匂いはいまいちですが、馬の蹄の音が鳴り響いています」
「ノクサス様だわ。ノクサス様が来てくれたのよ。これなら、すぐに捕まえられるわ」

あの人たちを捕まえたら、私はもう逃げずに済む。
でも、私がされたことが明るみになって、私は『襲われた女』だと後ろ指刺されるかもしれない。きっと純潔も疑われるだろう。
けれど、秘密と不安を抱えたまま、ノクサス様に答えるよりもきっといいはずだ。

「ミスト。どこにあの人たちがいるかわかる?」
「庭にいますけれど、匂いまでは……」
「なら、ノクサス様を呼んできて。ミストなら、霧の中でも大丈夫でしょう? 男たちが近づいて来たら、私は、トラップを発動させるわ。もう1つしか残ってないけれど、これでやるわ」
「すぐに帰って来ます!」
「お願いね!」

ミストは元気よく返事をして飛び出した。






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