英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

屋月 トム伽

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過去の秘密は言えない 1

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一年前______。

私とお父様は従軍していた。
私はユージェル村に、白魔法使いとしての回復要員だった。
お父様はユージェル村の隣村に、負傷者の記録や前線から送られてくる書類の確認や清書などのために書記官として。
私たちが従軍していたのは、お金のためだった。
戦争の一時的な税金すら払えない私たち親子には、少しでもお金が欲しかったのだ。
それに、従軍していれば、戦争が終われば慰安金も出る。
村や王都にいても、私たちに貴族の暮らしは出来ないのだから、国のためにと志願したのも間違いなかった。
白魔法使いとして、役に立たなければ……と思っていた。
それでも、伯爵家である私たちが前線に送られることはなかった。

ユージェル村は、戦場からの負傷者が下がってくるが、重傷者から回復に当たっていた。
戦場では、満足に治療出来なかった者や、負傷した貴族たちが戦場から離れてこのような負傷者を受け入れている村に下がって来るのだ。そのまま、回復後に戦場に戻る者もいれば、このまま戦場から離れる者もいた。酷いトラウマにストレスでもう戦場に戻れないのだ。
震え怯える者もいれば、攻撃的になる者もいた。

ある日、多くの重傷者たちが、送られて来ることがあった。
前線で、何かあったらしい。まだ、この村には、知らされてなかったけど戦いが激しいものだと思った。
そして、いつも通り重傷者から回復魔法をかけていたが、それを気に食わない貴族の令息たちがいた。
「貴族なのに……俺たちを先にしろ!」と喚いていたらしい。
ガラの悪い令息たちだった。戦場から来たという事は、嫡男ではない。
いずれは、爵位のないただの貴族なのに……上司の白魔法使いは、「軽症者はあとだ!」と取り合わなかった。

その鬱憤が溜まっていったのだろう。
その鬱憤は、たまたまいた私に向けられた。
私が重傷者の回復に当たっていたからかもしれない。

月も出てない真っ暗な夜になり、汚れたガーゼを洗うために一人外の洗い場に行った時にそれは起こったのだ。
洗い場は、流し場のある納屋を借りており、そこにガーゼなど医療道具に魔法薬などの倉庫替わりにしていた。
一人そこでカンテラを手元に置き洗っていると、そこに、見知らぬ男たちが、やって来のだ。

「キャァァーー!?」

いきなり目をめがけてか、顔に何かの魔法薬をかけられた。
催涙薬か……他にもなにか混ぜていたのだろう。目に激痛が走り、もう瞼を開けられなかった。
とっさに持っていたガーゼやカンテラを投げたが当たらなかったのだろう。ただ、地面で割れる音がしただけだ。

男たちは何人もいたのか、「抑えろ!」と誰かが指示を出し、目を抑えうずくまる私の両腕を抑えられてしまった。必死で抵抗した。
魔法弾を放っても、相手が見えないのだから当たることもなかった。
それでも、誰かに聞こえないかと必死で叫んだ。最後の抵抗だったのかもしれない。

「痛い!! 離して!! 誰か! 誰かーーーー!!」

怖かった。激痛は走り目も見えず、男たちに乱暴に立たされて抑えられる。
そして、背中を斬られた。

「キャァァーー!!」
「白魔法使いなら、自分で治してみろ!! 俺たちを後回しにして放置しやがって!!」
「俺たちの痛みを思いしれ!!」

斬られてそのまま、放り投げるように地面に投げ出された。
こんなに元気な重傷者はいなかった。軽症者の令息たちで間違いなかった。
軽症者は後回しにされた明らかな逆恨みだった。おそらく、戦場が怖くなり、負傷を理由に戦場から離れたのだろう。
自分勝手すぎる。もう戦場に戻れない者もいるのに、貴族だからと先にしろ、なんて……。
それと同時に、これ以上なにをされるか分からずに恐ろしかった。
このままここで、殺されるかもしれない。もし、暴行なんてされたら……。
身体中は震え、怯えている。呼吸も上手く出来ない。

その時に、物凄い音がした。
まるで、納屋が破壊されるような音だ。

「なにをしている!?」

男たちを怒鳴りつける声がしたと思ったら、男たちの叫び声がした。
小さな納屋は血の匂いでいっぱいになりそうだった。
剣と剣の交わる音もした。叫び声が木霊するように遠のいていく。
あの男たちは逃げたのだろうか。

「大丈夫か!? なんて、ひどいことを……っ!!」
「……っ!  はっ……はぁ……ふっ……うぅ……!」

誰かに、支えられて起こされた。
支えられた手が、背中の斬られた痕にヌメリと血がついただろう。そして、背中が痛くて堪らなかった。
必死で呼吸をした。
冷静になろうと必死だった。戦場で付いた傷じゃない。ただのひどい嫌がらせだった。

「……血の、血の匂いが……すぐに回復を……っ」

本当は誰の血の匂いか、もうわからなかった。
自分を見失わないように、いつも通りのことをしようと必死だったのかもしれない。
それくらい、何が起こったのか分からなくなっていた。
見えない目で、支えられた手の持ち主にしがみついた。そして、どこを怪我したのかわからないから、身体全体に回復魔法を発動させた。その間もみっともなくずっと泣いていた。

「やめるんだ。俺の血じゃない。怪我をしているのは君だ……」
「でも……うぅっ……っ……!」
「大丈夫だ。もう大丈夫だ。ここにはもう君を傷つける者はいない。誰にも触れさせないから安心しなさい」

優しかった。私を労わるように言ってくれて、それでいて大事なものを奪われないようにか、力いっぱい抱きしめられた。
どんな声なのか……耳にも魔法薬がかかっていたせいか、声がくぐもって聞こえた。
でも、私は、この人に救われた。怯えている私には、この言葉が印象に残るほど、呼吸が落ち着くのを感じた。

「すぐに人を呼んで来る。ここで待っていろ」
「い、いや……行かないでください。また、あの人たちが来たら……」
「……大丈夫だ。一人にはしない。マントを敷くから、寝られるか? すぐに止血をしよう」

その人の敷いたマントにうつ伏せになると、彼は張り上げるような大きな声で「誰か来てくれて!!」と人を呼んだ。
私が行かないで、と言ったから本当に同じ隊の白魔法使いたちが来るまで側にいてくれた。
人が来るその間も、納屋にあったガーゼで、慣れた様子で傷口を圧迫止血してくれた。
うっすらとした意識の中で不意に血の匂いが近づいたと思うと、ゴツゴツした手で頬を撫でられていた。

その手に安堵したのか、多量出血のせいか、私はそのまま意識が途切れてしまった。








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