上 下
33 / 66

秘密を少し

しおりを挟む
ノクサス様が「美味しい」と喜んで食べてくれて、たくさん作ったサンドイッチは全く残らなかった。

「また、作ってくれると嬉しいのだが……」

少し照れたように、ノクサス様がお願いしてくると自然と口元が緩んだ。

「はい。今度は休日が合えばどこかにピクニックにでも行きましょう」
「それは楽しみだ。必ず休日を取るぞ」

さっきまでの、公開訓練場で剣を振るっていた殺伐としたノクサス様とは、全く雰囲気が違った。
まるで別人のような雰囲気だ。
穏やかにバスケットを片付けていると、ミストはやっと食べ終わったか、と待ちきれないように膝に乗って来た。

「ダリア様。目的のものを見せてもらってください」
「ノクサス様はお疲れよ。もう少し休ませてあげても……」
「目的のものとはなんだ? 他になにか用があるのか?」

問いかけるように隣にくっついて座るノクサス様は、私からミストに視線を移した。

「僕たちが隠した記録を見せろ。本当にここに隠してあるのか信用出来ないからな」
「僕たち……? ミストは、ダリアの秘密を知っているのか?」
「当然だ。セフィーロ様の使い魔だからな」

ノクサス様は、「猫に負けた……」とうなだれてしまった。
そして、いきなりハッとした。

「……セフィーロ? まさか、叡智の魔法使いのセフィーロか?」
「ご存知で? 私の師匠なのですよ」
「知っている! フェルたちと探していたんだ! 住処もわからないし、全く痕跡がないからもう諦めかけていたのだが……まさか、亡くなったというのは……?」
「ミストが看取ったそうです。私も後から他界したと聞いて。でも、師匠は変人と言われていましたから、弟子の私にも理解に及ばないところのある方でしたので」
「そうだったのか……」

そう呟くと、ノクサス様は立ち上がり鍵の付いた引き出しを開け始めた。
鍵は、いつも持ち歩いているのか、腰に鎖で繋いでいた。

「これを隠していたのは、ダリアたちということは、そのセフィーロも関わっていたのか?」

出された一枚の記録をノクサス様は、私とミストの前に出した。
言いにくくて言葉が詰まった。でも、ノクサス様に嘘や隠し事をすることに、最近は胸がチクリと痛んでいた。誠実な眼差しを向けて来るノクサス様に、罪悪感があったのだ。

「……私とお父様が師匠に頼みました。お金を払って仕事として頼んだのです。師匠の力を借りて、騎士団の記録庫に忍び込みました。罪に問うなら私だけにしてください。お父様は何も悪くありません」

いくらもう他界していたとしても、お父様に罪を着せるつもりはない。
ただ瞼を閉じて静かにそう言った。

「ダリア様は何も悪くない! 悪いのはダリア様を傷つけたあの男たちだ!」
「男たち……? 背中の傷はその男たちにつけられたのか?」
「背中の傷をどうして知っているのですか?」
「……実は、一緒に寝た時にナイトドレスから背中が見えてだな……」

気付かなかった。何も言わなかったから、背中なんか見られてないものかと思っていた。

「み、見たのですか!?」
「見た、というより目の前にあったから見えたというか……」
「ダリア様! この男は変態ですよ! 毎晩毎晩窓からやって来ているんです!!」
「えぇっ!? 毎晩!? だってあの日以降はずっと隣に居なかったわよ!?」
「ダリア様のベッドにやって来るこの男を、僕が毎晩追い返しているんです!!」

まさかの衝撃の事実だった。
ベッドに忍び込みたい、というような様子はあったけれど、来なかったから安心していた。
疑いもしなかった。

しかも、窓から!? 毎晩毎晩あのバルコニーを乗り越えてきていたとは!?

「ノクサス様。変なことをしないでくださいと言ったじゃないですか!?」
「泣いてないかと、心配だっただけだ!」
「変態め! ダリア様を守る気がないなら近づくな!!」
「変態ではない! 少し黙ってろ!」

ノクサス様は、「変態! 変態!」と連呼するミストに困りながらも怒ってしまった。

そして、一呼吸おき私に静かに聞いてくる。
ミストは、「フンッ」とそっぽを向いた。

「隠していたのは? 誰かに見られて不味いという事か?」
「……私を傷つけた男たちが、私を探していたそうです。お父様は偶然知ってしまって……私を守ろうと、必死で隠していました。定期的に誰かが私の経歴を見てないかも、確認していたのです」

私を襲った男たちが、私を恨み探していることをたまたま記録庫に行った時にお父様は知ってしまった。
その時は、仕事だと言って、その経歴を探される前にすぐにお父様が持って出た。でも、いつまでも、お父様が隠していると、私がルヴェル伯爵令嬢だとばれる、とお父様は案じ、師匠に相談していた。

そして、私たちは誰に見られてもわからないように、師匠が魔法をかけたのだ。











しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...