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昼食に誘います 2
しおりを挟む「ミスト! 行くわよ!」
すかさず立ち上がり、ミストと逃げようとした。
しかし、ノクサス様は大声で「ダリア!!」と叫んでいる。
恥はないのか!? と、脱兎の一択だった。
周りは私を見て「なんだ? なんだ?」とざわついている。
「ダリア!? 何故逃げる!?」
恥ずかしいからです!!
そう思うが声は出せない。
ノクサス様は、見学席に近づきそう言っている。
「ダリア様……もう逃げるのは無理かと……あの男は今にも乗り越えて来そうですよ」
ミストは、足元から冷静に言った。すでに呆れ顔だ。
ちらりと後ろを向くと、本当に乗り越えて来そうなほどノクサス様は必死の形相だった。
「……ノクサス様。少し静かにしてもらえたら嬉しいのですが」
「聞こえてないのかと……それに、何故逃げるんだ?」
逃げるのを諦めて、ノクサス様に近付きそう言った。
この沢山の視線が痛い!!
周りが気にならないのでしょうかね!?
「どうしたんだ? 会いに来てくれたのか? 教えてくれればすぐに迎えに行ったのに……」
「受付の方がお伝えに行ったのですが……」
「連絡は来てないぞ?」
やっぱり、と思う。
「ここで待つように言われたので……従騎士の方にお伝えに行きましたので、フェルさんがお聞きになる頃だと思いますが……あの、お弁当を持って来ただけですので、お渡しすれば、すぐに帰りますね」
「俺に? ダリアが作ったのか?」
私とノクサス様の間には1メートルほどの高さの壁があるのにおかまい無しに笑顔で肩に手を回してきた。その仕草にドキリとする。
「俺に作ってくれたのではないのか?」
「……はい」
無言の私に確認するように、顔の近くで言ってくる。
恥ずかしながらも返事をすると、バスケットごと身体を持ち上げられて壁を越えてしまう。
「重くないですか?」
「重いわけがないだろう。以前はもっと力があったとフェルが言っていたしな。会いに来てくれて嬉しいぞ。すぐに食べさせてくれるか?」
「はい」
ゆっくりと大事なもののように降ろされると、ちょうどフェルさんがやって来た。
受付の方からの連絡はいっていたようで、慌てている。
「申し訳ございません、ダリア様! 受付の者はまだノクサス様の婚約を知らないので……ご迷惑をおかけしました!」
「正式な婚約届けはしていませんし、お仕事ですから仕方ないですよ」
受付の方は仕事に忠実なだけだ。誰でも、名乗れば通していいものではない。確認を取るのは当然のことで、受付の方に問題はない。
ちょっと遅いかな、とは思ったけれど、騎士団は広いし、ノクサス様の執務室は4階にあるし、仕方ない。訓練の様子を見られたのは良かったし。
意外と元気に身体を使っていることも分かったし……正直素敵だな、とは思った。
「なんだ、ダリアを通さなかったのか? 次からはすぐに通してくれ。ダリアなら執務室に来てもかまわん」
フェルさんは、「次からはそうします」と言った。その顔は微笑ましい。
「ダリア様。近いうちに必ずお休みを取りますからね」
「急ぐことはありませんので……」
婚約届けを一緒に提出したいらしく、ノクサス様は必死で休みをもぎ取ろうとしている。
フェルさんはその調整に動き回っているらしい。
隣のノクサス様はご機嫌で、私を気づかいバスケットを持ってくれた。
「お邪魔でしたら、すぐに帰ります。まだ、正式な婚約者ではありませんし……」
「こんなにたくさんあるのにか? 一緒に食べようと思って来たのではないのか?」
「そう思いましたけど、お忙しそうですので……」
「気にするな」
本当は目立ったから、もう帰りたくなっている。
一緒に執務室に向かって歩いているけれど、人と通り過ぎる度に驚いたように振り向かれているのが居たたまれない。
気にもしないノクサス様と執務室に着くと、「こちらに……」と勧められて、すぐに中央にあるソファーに座らせられる。
ここまで来ればもう逃げることは出来ない。
逃げることを諦めて、バスケット開けると中にたくさん詰めて来たサンドイッチにノクサス様は、ますます嬉しそうになった。
ノクサス様は好き嫌いがなく、なんでも食べるとアーベルさんが言っていたから、なんでも食べるなら、種類がたくさんあれば喜ぶかも……と思い、色々な具材で作った。
それが、こんなに喜んでくれるとは……。
悪い気はしないどころか、作って良かったと私まで嬉しくなっていた。
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