英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

屋月 トム伽

文字の大きさ
上 下
31 / 66

昼食に誘います 1

しおりを挟む


指輪をいただいてから、ずっと首にぶら下げている。
首に下げているから、服の下に隠れ仕事中も邪魔にならなかった。

一通り仕事が終わると、昼前には仕事が終わる予定だ。
今日はノクサス様にお昼ご飯を届けることにしている。
経歴を誰にも見られないようにしてくださったし、いつも良くしてくださる。
そ、それに指輪ももらったし……。
せめて、なにか出来る事をもっとしてあげたいと思う。
ノクサス様は、また一緒に昼食を……と言っていたから、たまには探される前に、私から昼食を持っていく事にした。
私の手料理が食べたいと言っていたし、昼食ぐらいなら大丈夫だろう。

それに、ミストが「あの男は、本当に経歴の書類を執務室に隠しているのですか?」と疑うから、ミストと確認するためにバスケットを持ち、騎士団に向かった。
でも、私にはノクサス様が噓をつくとは思えない。

「あの穢れた男と結婚するつもりですか?」
「……結婚は、無理よ。ノクサス様に相応しくないもの。あの人は国の英雄騎士様よ。生まれもリヴァディオ伯爵家で、私みたいに困窮しているような伯爵家じゃないのよ。資産も実力もご立派な伯爵家だと、アーベルさんが言っていたわ。だから、ランドン公爵令嬢様は、ノクサス様を以前から知っていて、結婚したがっているのよ」
「ランドン公爵令嬢? 他に女がいるのですか?」
「……ノクサス様は断っていたけど、私よりも相応しいご令嬢よ」

私よりもずっと相応しい。顔があんなことになっているのに、変わらず好きだという事は、見かけだけじゃないと思うけど……。

「あの男を助けたいですか?」
「助けたいけど、もう私には無理よ。師匠もいないし……もしかして、解除の方法が師匠の家に残っているかしら?」
「苦痛を伴ってでも、解除したいのですか?」
「……ノクサス様のためなら、してもいいかもね」

ミストは、「フンッ」と言いながらも悩んでいた。

騎士団に着き、ノクサス様への取り次ぎをお願いすると、驚いた顔をされた。
そして、怪しまれた。

「リヴァディオ団長のただのファンじゃないのか?」
「本当に知り合いか?」

どうやら、以前からノクサス様は人気だったらしい。
ここ最近は、呪われてしまい顔を仮面で隠しているから、ノクサス様を見に来る女性が減ったらしいけれど。
以前は戦争から帰ったあとの公開訓練場では、ノクサス様目当ての女性がわんさか来ていたらしい。
平民から、バッチリ身だしなみを整えた貴族のご令嬢まで……。

やっぱり、元々のノクサス様は、整った容姿なのだろう。
でも、私には今のノクサス様しか知らない。みんなが知っていることぐらい私も知っておきたかったなぁ、とちょっとだけ思うと淋しい。

「……というわけで、従騎士の方に確認を取るから、公開訓練場に行ってなさい」
「わかりました……」

受付の方にそう言われて、もう会わせてくれないんだろうなぁと思う。
どう見たって、『ただのファンなら公開訓練場で見てろ』って感じの雰囲気だ。
従騎士の方に本当に取り次いでくれるなら、フェルさんが迎えに来てくれるはずだが、信じてないようだから来ない気がする。
結婚していたら、「妻です」と言えたが、まだ婚約届けも出してない。

前もって言えば、ノクサス様が落ち着かなくなるから、言わなかったけどフェルさんには伝えておくべきだった。失敗した。

「……ミスト。忍び込んで、ノクサス様に伝えて来てくれない?」
「なんで僕が? あの男は穢れているから、行きたくありません」
「冷たいわね」

仕方なく、公開訓練場に行くとまばらだが、見学者はいる。
訓練場には、ノクサス様が、剣で手合いをしているのか、真剣に剣を騎士たちと交えていた。
いつもの表情と違い迫力がある。

ミストが喋る猫だとバレないように、見学者のいない隅っこに移動して見ていた。
見学席と訓練場の間には1メートルほどの壁があり、見学席のほうが訓練場よりも高いから、騎士たちがよく見える。
ノクサス様目当てじゃなくても、騎士目当ての令嬢もいるみたいで、黄色い声も聞こえる。
騎士様相手なら、安定しているものね……。
手柄を立てれば報奨金もあるし、もっと出世すれば、爵位のない方は爵位を賜るかもしれないし……。
たとえ準爵位でも、爵位をいただければ名誉なことだ。
ノクサス様は元々爵位を継ぐことが決まっているから、興味はないのだろうけど。

「もし、あの男と結婚するなら、ダリア様を守ってくれるかもしれませんよ」
「知られたくないことだってあるわ……それに、そんなこと頼めないわ」

ノクサス様に甘えるようなことはしたくない。ただでさえ自分の呪いにそのうえ記憶喪失で大変なのに……。
そもそも、違う『ダリア』なら、きっと私のことなんかすぐに忘れる。

「せめてあの記憶はどうにかならないかしらね……」
「階段から落ちたなら、もう一度落としてやればいいのでは?」
「……やったらしいわよ。でも、落ちた時みたいにならなかったらしいし、頭を打っても記憶は戻らなかったらしいわよ。落ちると分かっていれば受け身でもとるのかしらね……」

その時、ノクサス様が剣を振り、向かってくる騎士を払ったところで叫ばれた。
視線は私を真っ直ぐに見ている。

「ダリア!!」

思わず、逃げたくなった。いや、もう逃げるしかないのでは?
周りに視線が一斉に私に集まっているのだから……。







しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...