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昼食に誘います 1
しおりを挟む指輪をいただいてから、ずっと首にぶら下げている。
首に下げているから、服の下に隠れ仕事中も邪魔にならなかった。
一通り仕事が終わると、昼前には仕事が終わる予定だ。
今日はノクサス様にお昼ご飯を届けることにしている。
経歴を誰にも見られないようにしてくださったし、いつも良くしてくださる。
そ、それに指輪ももらったし……。
せめて、なにか出来る事をもっとしてあげたいと思う。
ノクサス様は、また一緒に昼食を……と言っていたから、たまには探される前に、私から昼食を持っていく事にした。
私の手料理が食べたいと言っていたし、昼食ぐらいなら大丈夫だろう。
それに、ミストが「あの男は、本当に経歴の書類を執務室に隠しているのですか?」と疑うから、ミストと確認するためにバスケットを持ち、騎士団に向かった。
でも、私にはノクサス様が噓をつくとは思えない。
「あの穢れた男と結婚するつもりですか?」
「……結婚は、無理よ。ノクサス様に相応しくないもの。あの人は国の英雄騎士様よ。生まれもリヴァディオ伯爵家で、私みたいに困窮しているような伯爵家じゃないのよ。資産も実力もご立派な伯爵家だと、アーベルさんが言っていたわ。だから、ランドン公爵令嬢様は、ノクサス様を以前から知っていて、結婚したがっているのよ」
「ランドン公爵令嬢? 他に女がいるのですか?」
「……ノクサス様は断っていたけど、私よりも相応しいご令嬢よ」
私よりもずっと相応しい。顔があんなことになっているのに、変わらず好きだという事は、見かけだけじゃないと思うけど……。
「あの男を助けたいですか?」
「助けたいけど、もう私には無理よ。師匠もいないし……もしかして、解除の方法が師匠の家に残っているかしら?」
「苦痛を伴ってでも、解除したいのですか?」
「……ノクサス様のためなら、してもいいかもね」
ミストは、「フンッ」と言いながらも悩んでいた。
騎士団に着き、ノクサス様への取り次ぎをお願いすると、驚いた顔をされた。
そして、怪しまれた。
「リヴァディオ団長のただのファンじゃないのか?」
「本当に知り合いか?」
どうやら、以前からノクサス様は人気だったらしい。
ここ最近は、呪われてしまい顔を仮面で隠しているから、ノクサス様を見に来る女性が減ったらしいけれど。
以前は戦争から帰ったあとの公開訓練場では、ノクサス様目当ての女性がわんさか来ていたらしい。
平民から、バッチリ身だしなみを整えた貴族のご令嬢まで……。
やっぱり、元々のノクサス様は、整った容姿なのだろう。
でも、私には今のノクサス様しか知らない。みんなが知っていることぐらい私も知っておきたかったなぁ、とちょっとだけ思うと淋しい。
「……というわけで、従騎士の方に確認を取るから、公開訓練場に行ってなさい」
「わかりました……」
受付の方にそう言われて、もう会わせてくれないんだろうなぁと思う。
どう見たって、『ただのファンなら公開訓練場で見てろ』って感じの雰囲気だ。
従騎士の方に本当に取り次いでくれるなら、フェルさんが迎えに来てくれるはずだが、信じてないようだから来ない気がする。
結婚していたら、「妻です」と言えたが、まだ婚約届けも出してない。
前もって言えば、ノクサス様が落ち着かなくなるから、言わなかったけどフェルさんには伝えておくべきだった。失敗した。
「……ミスト。忍び込んで、ノクサス様に伝えて来てくれない?」
「なんで僕が? あの男は穢れているから、行きたくありません」
「冷たいわね」
仕方なく、公開訓練場に行くとまばらだが、見学者はいる。
訓練場には、ノクサス様が、剣で手合いをしているのか、真剣に剣を騎士たちと交えていた。
いつもの表情と違い迫力がある。
ミストが喋る猫だとバレないように、見学者のいない隅っこに移動して見ていた。
見学席と訓練場の間には1メートルほどの壁があり、見学席のほうが訓練場よりも高いから、騎士たちがよく見える。
ノクサス様目当てじゃなくても、騎士目当ての令嬢もいるみたいで、黄色い声も聞こえる。
騎士様相手なら、安定しているものね……。
手柄を立てれば報奨金もあるし、もっと出世すれば、爵位のない方は爵位を賜るかもしれないし……。
たとえ準爵位でも、爵位をいただければ名誉なことだ。
ノクサス様は元々爵位を継ぐことが決まっているから、興味はないのだろうけど。
「もし、あの男と結婚するなら、ダリア様を守ってくれるかもしれませんよ」
「知られたくないことだってあるわ……それに、そんなこと頼めないわ」
ノクサス様に甘えるようなことはしたくない。ただでさえ自分の呪いにそのうえ記憶喪失で大変なのに……。
そもそも、違う『ダリア』なら、きっと私のことなんかすぐに忘れる。
「せめてあの記憶はどうにかならないかしらね……」
「階段から落ちたなら、もう一度落としてやればいいのでは?」
「……やったらしいわよ。でも、落ちた時みたいにならなかったらしいし、頭を打っても記憶は戻らなかったらしいわよ。落ちると分かっていれば受け身でもとるのかしらね……」
その時、ノクサス様が剣を振り、向かってくる騎士を払ったところで叫ばれた。
視線は私を真っ直ぐに見ている。
「ダリア!!」
思わず、逃げたくなった。いや、もう逃げるしかないのでは?
周りに視線が一斉に私に集まっているのだから……。
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