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求婚と同じ言葉

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指輪の刻印を見て、手が止まる。まばたきせずに見ても刻印の名前は変わらない。

______ダリアへ

私と同じ名前だった。ノクサス様は、私の顔を見て間違いないと言っていた。
まさか本当に会ったこともない私を探していたのだろうか?
それとも、私が忘れているだけで、本当にお会いしたことがあるのだろうか?

「その指輪が階段から落ちた日にポケットに入っていたそうだ。誰も連れずにどこかに行こうとしていたから、ダリアに会いに行くつもりだったのだと思うが……違うか?」
「……わ、わかりません。私は、誰ともお会いする約束もしてなかったですし……王都でお茶をするのもマレット伯爵に誘われた時だけでしたから……」

月に1,2度はマレット伯爵と王都でお茶や食事をしていた。
借金を少しでも待ってほしくて、機嫌を損なわないように誘われるまま、いつもお供していた。
だから、男の方と一緒にいたのはマレット伯爵だけで、他の方と約束すらしたことない。

「この指輪を買った店はすぐにフェルが探し出したんだ。だから、店に誰かと来てないかと、聞き込みもしたが、いつも一人で行っていたらしい。そして、この指輪を大事な人に贈る、と俺が言っていたらしい。しかも、短い時間だったらしいが、しょっちゅう来ては指輪を選んでいたと……」

フェルさんが、ノクサス様が記憶喪失だとわからないように、上手く聞き出したのだろう。
でも、いつも行っていた、ということはノクサス様自身がこの指輪を選んでいたんだ。
誰にも頼らずに……。それは、本当に愛しい人に贈るためだろう。
忙しい騎士団長が通うなんて、よほどのことだ。戦後の処理もあっただろうに……。

「この指輪は君に贈る。ダリアに贈りたかったので間違いないんだ」
「もしも本当に『ダリア』が違っていたら……?」

もしも本当に、私と違うダリアならどうするのだろうか?
すぐに切り替えてこの熱っぽい眼差しは別の人に向けられるのだろうか?

「間違いはない。この顔なんだ。目の前のダリアで俺には疑いはない」
「本当に……? でも私は、覚えていないのです。本当に噂の英雄騎士ノクサス様しか知らないのです」
「それでもかまわない。思い出しては欲しいが、俺も記憶喪失だから、なにも言えん」

そのまま、指をすくわれて指輪をはめられる。
するりとはめられた指輪を見て私とノクサス様は目が点になった。

……おかしい!

「ノクサス様。やっぱり別のダリアじゃないですか? 全く指輪のサイズが違いますよ」
「おかしいな……なぜこのサイズを選んだのだろうか?」
「私に聞かれてもわかりません」

指輪はサイズが違い大きくてブカブカだった。
絶対に私の小さい指に合わせてない!

「……す、すまん! こういう時はどうするんだ!? 買いなおすか!?」

どうしていいのかわからないノクサス様は、不器用なくらい焦り混乱していた。
本当に女性にこんなことをしたことがないのだろう。

「買いなおさなくていいですよ。指輪はネックレスのチェーンを通して首からぶら下げます」
「すまん、結婚指輪は必ずサイズを測る」
「……サイズを測ってなかったということでしょうか?」
「そうじゃないのか? 見た感じでは、小さな指輪だと思ったのだが……」
「女性の指は意外小さいのですよ」

私に向けた指輪かどうかわからないが、嬉しかった。
一体どうしてこの指輪を準備していたのかはわからないけれど、誰からも必要されることはないと思った私に、ノクサス様は誠実な眼差しを向けてくれる。
そして、指輪ごと包むように両手を握りしめてきた。
今にも、顔が重なりそうだった。

「すぐに婚約届けを出そう。そうすれば、もう妾にあがる必要もない。こう見えても俺はリヴァディオ伯爵家の嫡男だ。マレット伯爵が手を出すことはできん。金の心配もいらない。報奨金も、給料も良いんだ。騎士団長の妻として苦労させることはあるかもしれないが無理強いはしない。誰にも触れさせることはしないから安心しなさい」
「……はい」

その言葉に涙が出た。
同じことを言われたことがある。そう思い出すと、ただ弱々しく返事するので精一杯だった。




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