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悩む英雄騎士様

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朝から、陛下にお会いした。
さっさとアリス嬢を引き取って欲しかったからだ。
城の一室で、向かい合って座る中年男性の陛下に、隣には20歳の若い王太子のアシュトン様がいた。

「陛下……何度も言いますが、婚約者は自分で決めます。勝手に決めないでいただきたい」
「しかし、アリスは、以前からノクサスを好いておるからな。どうしても無理なのか?」
「無理です。俺には好きな女がいます。彼女と結婚したいのですから、アリス嬢だけではなく、誰も勧めないでいただきたい」

ハッキリと伝えると、陛下は目を丸くした。
隣のアシュトン様は笑うのを我慢したように、顔を逸らす。

「そんな話は初めて聞いたぞ?」
「陛下に好きな女の相談をしてなかっただけです」

本当はいつからダリアのことが好きなのかは、わからない。
それでも、ダリアのことしか考えられないのは間違いないのだから、こう話しても問題はない。

「父上。諦めましょう。あの冷酷なノクサスがこう言っているのです。女の話をするノクサスは初めてですよ」
「確かにそうだが……国の英雄騎士と呼ばれる者が王家と繋がりのある結婚をするのは良い話だろう?」
「なら、騎士は辞めます」
「「はぁ!?」」

陛下とアシュトン様は、声を揃えて驚いた。
後ろに立っているフェルを見ると、冷や汗が出ている。

「ノクサス。辞めるのは困るぞ。お前がいるから、撤退した敵軍もいたぐらいなのだ。その、お前がいないと折角終わった戦争がどうなるか……」
「今さら、俺がいなくなろうが、もう戦争を吹っかけてくる国なんかありませんよ」

アシュトン様は、引き留めたいようで、その理由が模索しながら話してくる。
しかし、どうせ俺は記憶がないし、呪われているし、このまま騎士団のトップにいる必要があるのか。そう思い、後ろのフェルをもう一度見た。
フェルは、眉間にシワを寄せて、うっすらと首を振っている。

「とにかく、一刻も早くアリス嬢を引き取ってください」
「……仕方ない。アシュトン。アリスを引き取りに行きなさい」
「わかりました」
「それとノクサス。その傷はまだ治らんのか? 次の夜会はお前のお披露目でもあるのだ。仮面を付けたままでは困るぞ。必ずそれまでに治すのだ。夜会にはその好いた女も連れて来なさい。連れて来られないようなら、アリスをエスコートしてもらう。いいな」

アリス嬢なんかエスコートして夜会に出れば、彼女が婚約者だと周りから固められそうだ。
戦争の凱旋式はもうすでに終わっているが、陛下が主催する夜会にダリアをパートナーとして連れて行けば、もう誰も令嬢を勧めて来なくなる。
ダリアだけだと陛下も周りもわかるだろう。

凱旋式のことも覚えていないが、ダリアを誘わなかったのは何故だろうか?
その時は、ダリアはどうしていたのだろうか。

必死で記憶を思い出そうとしても、わからないまま陛下たちと別れて、執務室に戻った。

騎士団の執務室では、机に書類が積み重なっており、それに目を通しているとフェルが、机の側に置いた荷物に呆れ顔で聞いてきた。

「ノクサス様……なんですかこれは?」
「ダリアの荷物だ。俺が仕事に行っている間にいなくなっては困るからな。勝手に帰られないように持って来た。やっと彼女を見つけたんだ。離したくない」
「ずっと探していた……ということですか? それなら、本当にダリア様と逢引きしてなかったのでしょうか?」
「そうかもしれんが……あの顔をみると、以前から知っていたと思うんだがな」

しかし、よくわからない。
そもそも記憶のない俺がおかしいのだが……こればっかりはどうしようもない。
わざとではないのだから……しかし、早く思い出さんといけない気もする。

「ダリアの経歴はどうだった?」
「魔法で隠していたものは本当に経歴だけでした。しかも、怪しいところはないのですよ」
「ダリアに聞いたが、知られたくないようだった」
「従軍していたことは恥ではありませんし……貴族でも従軍していた者は他にもいるのに、何をあんなに頑なに隠すのでしょうか?」
「ダリアが従軍していた村はどこだ?」
「ユージェル村です。負傷者の受け入れをしていた村ですね。全く前線ではありませんよ。戦場でもなかったですね」

白魔法使いとして回復要員で従軍していたのだろうか。
しかし……あの背中の傷はなんだ?
夕べ、ダリアのベッドにもぐりこんだ時に、ナイトドレスと背中まである髪から見えたのは、肩からにかけて斬られたような傷跡があった。ナイトドレスを脱がすわけにはいかなかったから、どこまで傷跡が伸びているのかはわからないが……すぐに治せなかったのか、はっきりと残っていた。
前線に出てないのに、あんな怪我をするものだろか?
それとも、従軍とは関係ない傷跡なのだろうか?
ダリアがよくわからない。
ダリアの傷痕を見ると、許せない気持ちになる。
一体誰が可愛いダリアに付けたのかと……。

「その経歴は、どうした?」
「そのままにしています。記録庫の書類を隠されるのは違反ですから……」
「なら、その記録はこちらに持って来てくれ。隠していたんだ。きっとダリアはそのままだと困るぞ。騎士団長の執務室なら、置いておいても違反じゃない」
「わかりました。すぐにでも持ってきます」
「あまり大袈裟にするなよ。色々人に関わらせると、記憶喪失のこともバレてしまう。それに、ダリアが何かの罪に問われるようなことには決してしないでくれ」
「もちろんです。ダリア様のことも決して悪いようにはしません」

ダリアが心配だった。
今は治療院で仕事をしているだろうが、思い詰めてさせてないだろうか、と不安になる。
そう思うと、居ても立っても居られなくなっていた。








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