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噓も必要です
しおりを挟む驚いたまま私を見ていたかと思うと、目を逸らしてしまった。
「……大事な用があるなら、休んでもかまわないが……ダリアを離す気はない」
「お暇は? お暇なら良いということですよね?」
「長期間はやめて欲しい。用があるなら俺も一緒に行こう」
ノクサス様が一緒に来てどうするのです。
騎士団に不法侵入しようとしていることがバレてしまう。
騎士団長に犯罪をバレるわけにはいかないのですよ。
ノクサス様に師匠は会わせたいけれど……。
その間もノクサス様は、怪しんだ顔で私を見ていた。
とにかくこの部屋から早く追い出さないと、色々追求されそうだった。
「ノクサス様。そろそろ起きて支度をしましょう。ランドン公爵令嬢様も朝食に来ますし、お待たせするわけにはいきません。ノクサス様の手当てもありますから……着替えたらすぐにでもしましょう」
「それなら、今からしてくれ。折角一緒にいるのだから……」
「かまいませんが……では、すぐに準備しますね」
そう言って、ベッドから降りて、タオルなどを準備した。
そして、いつも通り顔を拭いて回復魔法をかける。
「ダリア。この顔は気持ち悪くないか?」
「これは怪我ですから……呪いのせいでもありますし。気持ち悪いということはありませんよ」
「……他の者はこれを気味悪いと思うやつもいる」
「呪いを知らないからじゃないですか? それに片面のマスクをいつも着けているからだと思いますよ」
顔のどす黒さに驚くかもしれないが、それは誰のせいでもない。
でも、きっとノクサス様は、気味悪がられて嫌な思いをしたのだろう。
「ノクサス様。きっと治しますからね」
「ダリアなら治せる気がする」
「……思い込みが激しいのは昔からですか?」
「さぁ? 記憶がないからわからないな」
絶対に思い込みが激しかったと思う。
顔を気にしているのか、と思うと、ノクサス様は、フッと笑みを浮かべていた。
そして、終わるとノクサス様は、私の荷物を持って行く。
私が帰って来ないと思ったのか、せめてもの抵抗なのだろうか。
でも私は、そんなことで諦めるような人間ではない。
荷物がないなら手ぶらで行くだけだ。
早く師匠のところに行って、また魔法をかけ直してもらわなければ……そう焦ってしまう。
朝食にはランドン公爵令嬢様がお待ちかねだった。
私とノクサス様が、一緒に朝食に来るとまた不機嫌になる。
「あなたは、朝から何をしているのです?」
「お仕事です。朝のノクサス様のお世話をしていました」
「サボりなさいと言ったでしょう?」
「サボってどうするのですか……ノクサス様が困ってしまいますよ」
私の能力が低いから回数を増やして魔法をかけているのに。
「そのことなら、心配いりませんよ。私が優秀な白魔法使いを呼んでます」
「いらないと言ったでしょう」
ノクサス様は呆れ気味だった。
ランドン公爵令嬢様は、ただの傷ぐらいしか思ってないのだろう。
ノクサス様たちは呪いのことは隠していると言っていたし……。
「その娘で治らないなら、役立たずですよ。もっと優秀な白魔法使いのほうがいいはずでしょう」
「ダリアと騎士団の白魔法使いに任せてますから、他人を邸にいれるつもりはありません。これ以上勝手をされるなら、今すぐに陛下に談判します」
「ご不興を買うのではないかしらね」
「かまいませんね。ダリアの為なら陛下とも争います」
ランドン公爵令嬢様は、ムッとしてしまう。
しかも、陛下と戦争でもするつもりなのか、ノクサス様は怒っている。
本気でやり合いそうな雰囲気だ。鎮めたほうがいいのでは? と思い、給仕のために後ろに立っているアーベルさんにフォローを期待して振り向くと、頷いていた。
アーベルさんも陛下と争うつもりなのか、まさかの謀反人を発見した気分になる。
どれだけノクサス様に忠実なのか。私には、アーベルさんは意外と困った人に見えてきている。
でも、少しだけいい事を聞いた。
『ダリアと騎士団の白魔法使いに……』と言ったのだ。
それなら、私が留守にしても大丈夫だろう。
私がいなければ騎士団の白魔法使いにしてもらえるはずだ。
そう思うと、少しだけホッとした。
そして、仕事に行くと言ってそのまま私は、自分の馬で邸を去った。
街の外の往診に行くと嘘をついて……。
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