上 下
24 / 66

噓も必要です

しおりを挟む


驚いたまま私を見ていたかと思うと、目を逸らしてしまった。

「……大事な用があるなら、休んでもかまわないが……ダリアを離す気はない」
「お暇は? お暇なら良いということですよね?」
「長期間はやめて欲しい。用があるなら俺も一緒に行こう」

ノクサス様が一緒に来てどうするのです。
騎士団に不法侵入しようとしていることがバレてしまう。
騎士団長に犯罪をバレるわけにはいかないのですよ。
ノクサス様に師匠は会わせたいけれど……。

その間もノクサス様は、怪しんだ顔で私を見ていた。
とにかくこの部屋から早く追い出さないと、色々追求されそうだった。

「ノクサス様。そろそろ起きて支度をしましょう。ランドン公爵令嬢様も朝食に来ますし、お待たせするわけにはいきません。ノクサス様の手当てもありますから……着替えたらすぐにでもしましょう」
「それなら、今からしてくれ。折角一緒にいるのだから……」
「かまいませんが……では、すぐに準備しますね」

そう言って、ベッドから降りて、タオルなどを準備した。
そして、いつも通り顔を拭いて回復魔法をかける。

「ダリア。この顔は気持ち悪くないか?」
「これは怪我ですから……呪いのせいでもありますし。気持ち悪いということはありませんよ」
「……他の者はこれを気味悪いと思うやつもいる」
「呪いを知らないからじゃないですか? それに片面のマスクをいつも着けているからだと思いますよ」

顔のどす黒さに驚くかもしれないが、それは誰のせいでもない。
でも、きっとノクサス様は、気味悪がられて嫌な思いをしたのだろう。

「ノクサス様。きっと治しますからね」
「ダリアなら治せる気がする」
「……思い込みが激しいのは昔からですか?」
「さぁ? 記憶がないからわからないな」

絶対に思い込みが激しかったと思う。
顔を気にしているのか、と思うと、ノクサス様は、フッと笑みを浮かべていた。

そして、終わるとノクサス様は、私の荷物を持って行く。
私が帰って来ないと思ったのか、せめてもの抵抗なのだろうか。
でも私は、そんなことで諦めるような人間ではない。
荷物がないなら手ぶらで行くだけだ。
早く師匠のところに行って、また魔法をかけ直してもらわなければ……そう焦ってしまう。

朝食にはランドン公爵令嬢様がお待ちかねだった。
私とノクサス様が、一緒に朝食に来るとまた不機嫌になる。

「あなたは、朝から何をしているのです?」
「お仕事です。朝のノクサス様のお世話をしていました」
「サボりなさいと言ったでしょう?」
「サボってどうするのですか……ノクサス様が困ってしまいますよ」

私の能力が低いから回数を増やして魔法をかけているのに。

「そのことなら、心配いりませんよ。私が優秀な白魔法使いを呼んでます」
「いらないと言ったでしょう」

ノクサス様は呆れ気味だった。
ランドン公爵令嬢様は、ただの傷ぐらいしか思ってないのだろう。
ノクサス様たちは呪いのことは隠していると言っていたし……。

「その娘で治らないなら、役立たずですよ。もっと優秀な白魔法使いのほうがいいはずでしょう」
「ダリアと騎士団の白魔法使いに任せてますから、他人を邸にいれるつもりはありません。これ以上勝手をされるなら、今すぐに陛下に談判します」
「ご不興を買うのではないかしらね」
「かまいませんね。ダリアの為なら陛下とも争います」

ランドン公爵令嬢様は、ムッとしてしまう。
しかも、陛下と戦争でもするつもりなのか、ノクサス様は怒っている。
本気でやり合いそうな雰囲気だ。鎮めたほうがいいのでは? と思い、給仕のために後ろに立っているアーベルさんにフォローを期待して振り向くと、頷いていた。
アーベルさんも陛下と争うつもりなのか、まさかの謀反人を発見した気分になる。
どれだけノクサス様に忠実なのか。私には、アーベルさんは意外と困った人に見えてきている。

でも、少しだけいい事を聞いた。
『ダリアと騎士団の白魔法使いに……』と言ったのだ。
それなら、私が留守にしても大丈夫だろう。
私がいなければ騎士団の白魔法使いにしてもらえるはずだ。
そう思うと、少しだけホッとした。

そして、仕事に行くと言ってそのまま私は、自分の馬で邸を去った。
街の外の往診に行くと嘘をついて……。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】22皇太子妃として必要ありませんね。なら、もう、、。

華蓮
恋愛
皇太子妃として、3ヶ月が経ったある日、皇太子の部屋に呼ばれて行くと隣には、女の人が、座っていた。 嫌な予感がした、、、、 皇太子妃の運命は、どうなるのでしょう? 指導係、教育係編Part1

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】番が見つかった恋人に今日も溺愛されてますっ…何故っ!?

ハリエニシダ・レン
恋愛
大好きな恋人に番が見つかった。 当然のごとく別れて、彼は私の事など綺麗さっぱり忘れて番といちゃいちゃ幸せに暮らし始める…… と思っていたのに…!?? 狼獣人×ウサギ獣人。 ※安心のR15仕様。 ----- 主人公サイドは切なくないのですが、番サイドがちょっと切なくなりました。予定外!

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...