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過去を探らないでください 4
しおりを挟む贈り物を携え部屋に戻り、リボンをほどくと、銀細工に薄い黄色の宝石で作られた花の髪飾りだった。
「どうだ? 気に入るだろうか?」
「すごく綺麗です……」
「ダリアの花に似てないか? 花はよくわからないが、ダリアという花は覚えたんだ」
私の背に合わすように、かがんで顔の近くで言われると恥ずかしさが増してしまう。距離が近い。
記憶が無くなってから、ダリアという名前が頭にあったから、どんな花か調べたらしい。多分、フェルさんかアーベルさんが花に同じ名前があるとでも言ったのだろう。
でも、今は私の顔の隣にあるノクサス様の顔が気になる。
「……ノクサス様。少し離れませんか?」
「何故だ? 恋人なら、これくらいは近付いてもいいものかと……」
「ですから、一度も恋人になったことはありませんよ」
ノクサス様は私と恋人だったと信じて疑わないのだろうか。
私からすれば、告白もされてないのに、恋人認定されたみたいでわけがわからないのだけれど……。
「ダリアももしかしたら忘れているのではないのか?」
「忘れていません」
記憶喪失なんてそうあるわけがない。真顔でそんな突拍子もない可能性を聞かないで欲しい。
そう思いながら、いただいた髪飾りを付けると、ノクサス様は笑顔を見せる。
「ダリア……綺麗だ」
「はい。綺麗な髪飾りです。ありがとうございます」
そうお礼を言い食事をしたあとには、ノクサス様のお部屋で顔の治癒をする。
いつもの魔法薬入りのお湯にタオルを湿らせて、顔を拭いていた。
「痛くありませんか?」
「あぁ、大丈夫だ」
ソファーに座っているノクサス様の隣に立って拭いていると、心配そうに今日のことを聞いてきた。拭いたあとは、回復魔法をかける。
瘴気の浄化魔法を先にかけて回復魔法をすれば、少しずつだが良くなるだろう。
「ダリア。今日のことなのだが……なにかあれば何でも相談してほしい」
「ありがとうございます。でも、なにもありませんから……それと、贈り物はいりませんよ。あんな高いドレスなんて……」
「贈り物はする。今度のパーティーにも出席して欲しい」
「パーティーってなんですか?」
「陛下主催の夜会にでなければならん。一ヶ月らしい」
「婚約者の方と行くのでは?」
「婚約者はいない。ダリアと出席したいのだが……」
それは、無理だ。
私なんかと出席しては、ノクサス様が恥をかく。
「ノクサス様。私は妾にあがるとお話したはずですよ。そんな女と陛下の夜会に出席してはなりません。陛下にも無礼ですし、ノクサス様が周りから何と言われるか……」
「周りは関係ない。妾の話は付ける。そうすれば、俺と婚約して欲しい」
いきなりの告白だった。驚いたからか、回復魔法をかけていたのに止まってしまう。
噓を言っているようには見えない。ずっと私を気にしているし……。
「私は、結婚できないのです。……妾にあがらなくても、ノクサス様はきっとガッカリします」
「……理由は? 俺にはガッカリする理由はない。だが、ダリアのことは知りたい」
「言えません。私にも秘密ぐらいあります」
「今日のことと関係あるのか? ダリアが急に暗くなったからと、驚くようには見えないが……」
「……本当にそれだけです」
「そうか……だが、誰にもダリアに触れさす気はない。君のことは必ず守る。妾にも決して出さない」
「……今、なんと?」
「妾には出さないと……言ったのだが?」
似たようなセリフを言われたことがある。
……あの時は、声もくぐもって聞こえていたから、声の主の本当の声すらわからない。
「……ノクサス様、戦場はどこに行かれていました? ずっと前線ですか?」
「そうらしいが……覚えてないからな。フェルに詳しく聞いてみるか?」
「いえ……忘れてください」
ノクサス様は、それ以上は聞かなかった。
知られたくない私もこれ以上は聞けない。
そのまま、回復魔法を再開して、ノクサス様の寝支度もお手伝いする
そして、「ありがとう」と言われる。
片付けも終わり部屋に戻ると、ノクサス様がナイトドレスも贈ってくださっていたから、それに、着替える。
私の部屋が狭くなってはいけないからと、今も居間には私への贈り物の山がある。
「どれがいいのかわからないから……と言ってまさかこんなに贈り物を買って来るなんて……」
ナイトドレスを着てみると、シルクの滑らかな肌触りが心地良い。
でも、鏡を見ると、背中が開いており、肩甲骨まで見える。
そこには、肩から腰にかけて斜めに斬りつけられた傷痕が今も残っている。
こんな傷痕があれば、誰も私を欲しがらないだろう。
マレット伯爵もきっと最初だけですぐに飽きると思う。
ノクサス様だって、これを見ればきっと好きにならない。
貴族の令嬢が身体を綺麗にするのは、当然のことなのに、私の身体は違う。
思い出すのは、辛い。
でも、もしかしたらノクサス様と出会っていたのだろうか……と微かに思い始めていた。
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