上 下
8 / 66

説得力はありません

しおりを挟む



無言の空気が流れる中、私はお世話係のことをお伝えした。

「あの……すみませんでした。お世話係はしようと思ったのですけれど、もしかしたら人違いかもしれませんね。どうしましょうか?」
「絶対に人違いじゃない!   ダリアで間違いない!」

ノクサス様に、そう言われても説得力はない。

「どのみち、お話をしてしまったので、ダリア様にはお世話係をお願いしましょう。ダリア様が思いだすかもしれませんし……」

力なくフェルさんが言うけれど、きっと思いださないと思っているだろうなぁと思う。
私だって、記憶にないのだから思いだす気配すらない。

「お、覚えてなくてもいいじゃないか。俺だって覚えてないのだから」

ノクサス様が覚えてないのと、私の記憶にないのは少し違うと思うけれど、これ以上追い討ちをかけることはできなかった。

「では、今日からこの邸に住んでください。お部屋はアーベルが準備しています」
「私は、荷物も持って来てないのですけど……」
「明日にでも、ご一緒に取りに行きましょう」

今日の着替えは、どうするのですか。
悩むと、アーベルさんが問題ありません、と言い出した。

「お部屋の準備はすでに出来ております。仕立て屋もすぐに呼びましょう」
「すみません。私はあまりお金がなくてですね……」

仕立て屋なんて高い服を買えない。
貴族なのに、少し恥ずかしいと思う。

「ダリア、気にしないでくれ。君に贈りたい。こちらが無理を言ったのだから……」
「お仕事になりますから、いただけません」

そう言うと、ノクサス様は悲しげな瞳を見せた。
その表情にいたたまれなくなる。

「ノクサス様、折角ですから、今から回復魔法をかけましょうか?   私の能力は低いのですが……」
「本当か?   ダリアのならすぐにお願いしよう」

そう言って、いきなり席を立たれた。
思わず驚いてしまう。
そのまま、ノクサス様は私の隣に座った。

「ダリア、これでいいか?」
「はい。お顔に回復魔法をかけますね」
「頼む」

ノクサス様は、少しかがみ前髪を上げた。
この呪いがなければ、きっと素敵な顔なんだろうなぁ、と思うぐらい顔は整っている。

手を額にかざし、魔法をだすと、柔らかい光がノクサス様の額を灯した。

でも、額のただれは引かない。
きっと長期間の回復魔法が必要なんだと思う。

「……ノクサス様、終わりました。すみません。すぐに治せなくて。回復魔法が長期間必要と思うのですけれど……」
「騎士団の治療院でも、そう言われた。一度では治せないと……呪いをなんとかしないと、治せないのでは、と言っていたらしい」
「呪いはどうするのですか?」
「呪いをかけ、討伐した魔物の核を秘密裏に探させているらしいが……残っているかどうか……」
「見つかるといいですね……」
「ダリアがいれば見つかる気がする」
「そうですかね……」

私は、関係ないですよ。
ラッキーアイテムではありません。

ノクサス様に、見つめられている。
……そもそも、どうして私のことを知っていたのか不思議だ。

本当に初対面なのですけれど……。

悩んでいると、フェルさんが、やっと空気を呼んだように、声をかけてくれた。

「ノクサス様。ダリア様をお部屋にご案内されてはどうですか?   アーベルがご案内いたしますから」
「そうだな。ダリア、部屋に行こう。今日から、一緒に住んでくれ」

ノクサス様と、アーベルさんの案内で用意された部屋に行くと、広く立派な部屋だった。
バルコニーまである。

「ノクサス様……ありがとうございます」

そうお礼を言うと、ノクサス様は嬉しそうな表情を見せた。







しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

処理中です...