3 / 66
英雄騎士様がやって来た
しおりを挟む翌日、この村にあるマレット伯爵様の邸に行こうと着替えを済ませると、朝からマレット伯爵様がやって来た。
「ダリア、暮らしはどうだ? そろそろ家に来ないか?」
やって来るなりマレット伯爵様はお酒臭い。
朝から飲んで来たのか、ご機嫌な感じでやって来た。
王都の夜会からこの村に帰るのに、そのまま私のところに来たのだろう。
そんなマレット伯爵様に、話を始めた。
「あの……妾にあがるのを延期してもらえませんか?」
「今さら金なんか返せないだろう?」
「すぐには無理ですが、仕事が入りそうなのです。以前よりもきっとお返しできるかと……」
「無理だろう。ダリアの収入だけで返せるとは思えないぞ」
うぅ、呆れ顔で、そうあっさり言われるとは……。
確かに私の働いている収入は、魔法治療院での回復だ。
かといって、王都に毎日通っても私だけの収入で借金の返済は無理だった。
「それに、名前で呼べと言っていたはずだが? スタンリーと……」
「は、離れてください! 妾にあがるまでは、なにもしない約束です!」
マレット伯爵様は、私に近づき腰に手を回す
まだ手は出さない約束なのに、お酒臭いせいか約束を忘れたようにしてくる。
一生懸命に押しやるが、離れてくれない。
背筋がゾッとする。必死で唇嚙みしめた。
嫌だ!!
そう思った瞬間に、マレット伯爵様の感触がなくなった。
「ぐはぁー!?」
そして、変なうめき声がした。
どうやら、首根っこを引っ張られたようだ。
「ダリア!! 大丈夫か!?」
知らない人が、私からマレット伯爵様を引きはがしてくれていた。
焦ったように私を心配している。
……でも、見覚えはない。
何故か顔の右側は仮面を付けている。
顔全体が見えないからますます誰かわからない!!
「ど、どなたでしょう! ふ、不審者!?」
「違う!」
全力で否定されてしまった。
片側仮面の男は、スラリと腰の剣を抜きマレット伯爵様の首筋に向けた。
マレット伯爵様は、「ひいっ……!」と腰が抜けている。
「貴様! 何者だ!?」
その質問は私がしたい!
あなた様はどなたでしょうか!?
「ノクサス様! ひっ捕らえますか!」
「斬る!」
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
ここを殺人現場にする気ですか!?
よく見たら、ノクサス様と呼んだ方は昨日来たフェルという使者の方だ。
ということは、このノクサス様と呼ばれた片側仮面の方が、あの英雄騎士と呼ばれているノクサス様!?
「どうした? この男は君に触れたのだぞ」
「そ、そうですが、止めをここでさせるわけには……!」
どうして、ノクサス様が怒っているのでしょうか!?
迫力がありすぎて怖い!!
「君が言うなら、ここは抑えよう」
「あ、ありがとうございます」
そう言いながら、剣を腰の鞘に納める。
「ダリアのおかげで命拾いをしたな。二度と近づくな!」
ノクサス様は、短い言葉で必要なことを言うと、マレット伯爵は抜けた腰を必死に起こして乗って来た馬車に乗り込んだ。
そして、あっという間に去ってしまった。
借金の返済のことも、妾にあがることを待ってもらうことも話がついてないのに……いいのだろうか。
呆然と立ち尽くす私に、フェルという使者は朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。ダリア様。こちらが、主のノクサス・リヴァディオ様です」
やはり、この方がノクサス様で間違いなかった……。
5
お気に入りに追加
1,013
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
白猫は異世界に獣人転生して、番に愛される
メリー
恋愛
何か大きい物体に轢かれたと思った。
『わん、わん、』と言う大きい音にびっくりして道路に思わず飛び込んでしまって…。
それなのにここはどこ?
それに、なんで私は人の手をしているの?
ガサガサ
音が聞こえてその方向を見るととても綺麗な男の人が立っていた。
【ようやく見つけた。俺の番…】
ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった
白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」
な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし!
ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる