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小さな花売り
しおりを挟む腕を見れば。魔封じの魔法陣が描かれている。魔法を使える罪人に刻まれるものだ。私が塔に閉じ込められた時に、王妃の命令で刻まれた。彼女の命令なら、逆らえなかっただろう。
しかも、殺されたのは王太子殿下であるフィラン殿下だった。
これを解除しないと、魔法が使えない。
気晴らしに庭に出ようとすれば、玄関外にはメイドたちが集まっている。そこには、籠を持った平民のようなみすぼらしい子供が来ていた。歳は8歳ぐらいだろうか。緑の髪は少し珍しい。
「ケイナ? どうしましたか?」
「あ、リラ様。すみません。すぐに下がります」
「いいのですよ。私は客人ですし……」
「リラ様は、お客様ではありません。ジェイド様の大事な方です!」
ずいぶんとジェイド様とのことを応援されている。堅物だと有名なジェイド様が初めて私を連れて来たからだろうか。
「それよりも、そちらの子供は?」
「物売りです。使用人用の玄関もわからなかったようで……」
「まぁ、小さな物売りさんなのね……」
「すみません。奥様。大きなお邸で入り口がわからなくて……」
慌てて帽子を取った子供が畏れ多いとでも言うように、緊張して頭を下げた。
持っている篭には、お花が詰められている。どうやら、大きなお邸だから街で花売りをするよりも買ってくれると思ったらしい。
「大丈夫ですよ。お花を頂けるかしら? 何か売れるものと交換しましょうね」
「ほ、本当ですか?」
「もちろんです」
にこりとして子供に笑顔を向けると、嬉しそうに子供の表情が明るくなった。
「ありがとうございます! 奥様!」
「奥様ではないんですけどね。リラと呼んでください」
「はい! リラ様!」
子供の持っている篭を取ると、ケイナたちメイドが、「お優しい」と感動して私を見ている。そんな感動するようなことではないけど、使用人たちからすれば、私の行動は慈悲のあるものに見えたのだろう。ちょっといたたまれない。
「でも、手持ちのお金がないので、何か売れそうなものを持ってきますね」
塔から着ていた服もドレスだったから、お金にはなるだろう。
すると、ケイナが笑顔で言う。
「リラ様。気にしないでください。ジェイド様から、リラ様の欲しいものは買うように言いつかっています。お金は気にしなくて大丈夫です!」
「ジェイド様が?」
「はい。ですから、リラ様はお金を出さないでくださいね。それよりも、そろそろお茶の時間です。お部屋に戻りましょう」
そう言って、ケイナが笑顔で言う。確かに、そろそろお茶の時間だ。ジェイド様は、邸では何不自由ない生活をさせてくれている。使用人たちもジェイド様を応援しており、私はビックリするくらい大事にされている。
やって来た子供を見れば、にこりと口角を上げて笑顔を見せてくれる。
「ケイナ。こちらの子供に……ええと、お名前を伺ってもいいかしら?」
「リーガです」
「まぁ、可愛い。ケイナ。こちらの子供に私のお菓子を分けてもいいかしら? 一緒にお茶をしたいわ」
「もちろんです。すぐにお持ちしますね!」
「はい。何か飲み物もお願いしますね」
ケイナは、もう一人のメイドと嬉しそうに階下の厨房へと走って行った。
「リーガ。ここの料理人のお菓子はとっても美味しいんですよ。一緒に食べてくれるかしら?」
「いいんですか? 僕は、花売りです。親もいない孤児で……」
「でも、立派に働いているわ。子供と言わない方がいいかしら? 小さな花売りさん」
幼い子供が立派に働いている姿に敬意を払うように言うと、リーガも笑顔を見せた。
「では、ガゼボに行きましょうか。お花をよく見せて欲しいわ」
「はい。リラ様」
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