上 下
56 / 148
第一章 ブラッドフォード編

迫力満点でしたね

しおりを挟む
ノートン男爵とアリシアが帰った後、リディアと昼食をそのままレストランでとった。

ノートン男爵と、特にアリシアには不快感しかなかった。
ノートン男爵もアリシアも俺を誘惑するつもりだったのだろうが、俺に通じるわけない。
リディアを悲しませ、傷付けたものは不愉快極まりなかった。
レオン様はおそらくアリシアの誘惑に乗ったのだろう。
その言葉通り、アリシアの上に乗ったとは思うが。
…欲求不満だったのか?
まぁ、リディアは固いからな。
レオン様では、リディアは無理だろう。

「あの…じっと見てどうしました?」
「いや、美味いか?」
「ええ、このカルパッチョは中々いけますわ。」
「それは良かった。」

リディアと一時の昼食を楽しんでいると、カランカランとドアが開く音がし、ウィルが声を荒げていた。

「いけません!オズワルド様は今、昼食中です!お引き取り下さい!」
「使用人のクセにうるさいわね!退いて!」

貸し切りにしている為か、ドアの鐘の音も不愉快な声も二階のテラス席まで聞こえた。

「…オズワルド様…あの声…」
「大丈夫だ。席から動くな。」

リディアの置いたナイフとフォークの音が聞こえないくらい不愉快な声の主はカツカツと二階に上がってきた。

何の用だ。
まさかリディアを狙っているのか。
やはり、リディアと関わるようになっているのか。

リディアを庇うようにリディアの席の前に立ち、不愉快な声の主を制した。
アリシアからはリディアの顔が見えないように。

「何の用です。アリシア。」

「オズワルド様!お止めしたのですが、ご令嬢が!」

「まぁ、忘れ物をしたとお願いしたのですが、勝手に騒がれてしまいまして…。礼儀のない使用人で困ってしまっています…。」

アリシアは、同情を買おうとしているのか、弱いふりをしているように見えた。
それに、俺達が二階にいるから、ウィルとのやり取りが聞こえんとでも思っているのか。
そんなものが俺には通じんとこの女はわからんのだろう。

「礼儀がないのはアリシアでは?ウィルに非礼はない。ノートン男爵はどうした?」
「…父は用がありまして…彼女は?」

あのネックレスを着けたアリシアはそう話しながら近付こうとした。

「近づくな。彼女に近づくことは許さん。」
「…ご挨拶だけ…」
「近づくなと言っただろう。俺が冷静なうちに去るんだ。」

そして、俺は闇魔法を足元からじわじわと出した。
牽制のつもりだが、近づくなら闇に飲み込んでもいいと思った。

「公爵の招待もなく、プライベートに勝手に入り込み無礼を働いたと突き出してもいいんだぞ。…それとも、闇に飲まれたいのか?」

俺が足元から出した闇に、アリシアは、ヒィとでも言うような表情になった。

「ハ、ハンカチを落としたので、そのっ、取りにきただけですっ…!」

アリシアは青ざめながら、後ずさり必死に言った。

「ウィルに謝罪をしろ。俺の従者だ。」
「じゅ、従者に?」
「今すぐだ。」
「…す、すみません。」

もう一睨みをすると、アリシアは再度謝罪した。

「も、申し訳ありません。」

リディアとの時間を邪魔し、許可なくリディアに会うことに腹立たしさが増してくる。

「ウィル!一階のテーブルの下を見てこい!」

ウィルは畏まりました。と言い一階に急いで降りた。
テーブルの下には確かにハンカチが落ちていたようだ。
小さく折り畳まれ、分かりにくいように。
後で来る為にわざとおいていったのか。

「ウィル、ハンカチを渡してさっさと追い出せ。」
「畏まりました。」

追い出されるアリシアだが、本人もその場から離れたかったようで逃げ出すように、レストランから出ていった。

「…リディア、大丈夫か?」
「…オズワルド様、その足元の魔法は?黒いマントがバタバタしてるように動いてますよ…」

スゥーと魔法を収め、リディアの手を握ると、微かに震えていた。
手を握らないとわからないくらい微かだったが。

「魔法が怖いか?…それとも、アリシアか?」
「怖くありません。オズワルド様の魔法ならもっと怖くありませんよ。…それに迫力満点でしたね。あのアリシアが逃げましたよ。」
「守ってやると言っただろう。」

リディアはふふっと笑ってくれた。

「…また、私に止めを刺しにきたのかと一瞬思っちゃいました。でも、オズワルド様に近付きたくて来たように見えましたね。」
「…レオン様の時も同じような手を使ったのかもしれんな。だが、俺にはきかん。」

そう言うとリディアは軽く瞳を閉じ、握っている手を握り返すように、指と指の間に絡めてきた。

「…オズワルド様と婚約して良かったです。」

思いもかけず、リディアは嬉しいことを言ってくれる。
手を握ったままリディアを見つめると、目が合い、それは引き寄せられそうな目だった。
そして、握っているリディアの手を引き寄せ、そのまま唇を重ねてしまっていた。







しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...