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第一章 ブラッドフォード編

悪巧みのサインをどうぞ

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オズワルド様は、席にどうぞと座ったまま促していた。
そして、ノートン男爵親子の座る様子を見ながらウィルに仕事の話を振るように話かけた。

「ウィル、献上するワインはどうだ?」
「はい、オズワルド様の指示通り、アレクセイ様にワインの献上の手配は済みました。追加の受注も手配しました。」

は?
アレク様にワインの献上?
ワイナリーも持っているのかしら?
まだフォーレ伯爵のは買い取ってないはず。

しかし、アリシアの胸を見てないでしょうね。
私にはあんなに立派な胸はありませんからね!
でも…決して私のも小さくないはず!

「さて、ノートン男爵。今日お越し下さったのは、そろそろ全額を返して頂きたく思いまして。」
「も、もう少し待って下さったら、きっとお返しできます!」
「…何か当てでも?」
「それは…」

ノートン男爵は返す当てがないのね。
歯切れが悪すぎるわ。

「まぁ、ワインでもどうぞ。フォーレ伯爵のワイナリーのワインですよ。中々気に入っています。フォーレ伯爵は真面目な方ですしね。金を出しても惜しくないと思ってます。」
「……!私もフォーレ伯爵のワイナリーに投資をしようと思ってます。きっと成功すると思います。…ですから、投資分の資金を少しだけまたお借り出来たら…。」
「そうですか。俺は男爵がどこに投資しようが口を出すつもりはありません。お好きにどうぞ。それから、返済が滞っていますが、そろそろ返済が出来なければ担保の屋敷を頂きたく存じます。今回で返済が無理なら容赦なく実行しますよ。投資で得る金も借金の徴収に当てますからね。」
「…わかりました。」
「では、期限や追加の借金についての書類です。サインをどうぞ。」

そして、ノートン男爵は書類にサインを始めた。

フォーレ伯爵のワイナリーは近々、事業の金を使い破産すると思う。
ノートン男爵は、オズワルド様の言ったワインの献上とフォーレ伯爵のワイナリーとでおそらく王宮に献上するとを結びつけたのだろう。

本当に、ワインを献上するのかどうかも知らないけど。

そして、オズワルド様が金を出すと言ったのを投資と勘違いしている。
オズワルド様はフォーレ伯爵のワイナリーを落とし買い取ろうとしているのだ。
投資ではない。

多分、オズワルド様はノートン男爵が投資に失敗したあと、ワイナリーを買い取るのだ。
そして、容赦なくノートン男爵の担保を回収するのだろう。

ノートン男爵がサインしている間に、アリシアはオズワルド様に話しかけた。

「憧れの公爵様にお会いできて光栄です。それに、貸し切りなんて凄いですわ。もしよろしければ、この後、ご一緒致します。」

オズワルド様はフッと笑った。

「この後、婚約者と食事をする為に貸し切りました。あなたとは、生涯婚約することはありませんよ。お相手もしません。」
「えっ…婚約者…?」
「知りませんでしたか?宮中の夜会に連れて行ったのですが。あぁ、招待されてませんでしたか。」

アリシアは恥をかかされたような顔になっていた。

いや、アリシアが恥をかくのはお門違いですからね!
自業自得だ!

そして、あのプレゼントを出した。

「これは、慰謝料みたいなものですが良ければどうぞ。あなたと婚約できませんので。お守りみたいなものです。」

アリシアが、プレゼントを開けると、中身は立派な赤い宝石が連なっているネックレスだった。

「こんな立派なのを私に…?」
「ええ、きっと似合いますよ。」

アリシアは嬉しそうにいそいそとネックレスを着けた。

オズワルド様はニッコリと片肘をついて、似合いますよ。と言った。

「金は明日にでも屋敷に送ります。」
「ありがとうございます!」

ノートン男爵とアリシアは成功を確信するかのように嬉しそうな顔で帰って行った。

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