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しおりを挟む「アイゼン様……っ! どうか、お待ちを!」
「アイゼン様……?」
リオネルの声がレアンにやっと届いたのか、それまでは何も聞こえなかった様子のレアンが胸と大腿を剝き出しのままで振り向いた。
「ア、アイゼン様!?」
茂みを挟んで、感情を無くしたような俺と目線が交わったレアンが一瞬で青ざめる。
「……これは、どういうことだ」
怒りを滲ませた声音で言う。
「アイゼン様……っ私……」
冷酷無慈悲な表情になっているのだろうか。しかし、腹の内は怒りが沸きあがって来ていた。
ずっとラヴィニアの愛人だという立場に耐えてきた。屈辱と恥辱に耐えて……それも、レアンや辺境の地のために耐えてきたのだ。
それが、目の前の光景に愕然とした。ほとんど休まずに帰って来た。何のためにやっとレアンのもとに帰って来たのかと……。
「ア、アイゼン様……っ、どうして……まだ、お帰りでは……」
「急いで帰って来てはいけないのか」
慌ててレアンがドレスを直している。その姿に、怒りが湧いてくる。
「そんなことありません! 私は……」
「アイゼン様! どうか、お怒りをお鎮め下さい! お嬢様は、待っていたのです。ですが……」
執事が、レアンを庇おうと言う。レアンが胸をドレスに押し込みながら立ち上がり、近付いて来るが、怒りしかなかった。
何のために、恥辱に耐えて帰って来たのかと。
踵を返し、足早に飛竜の元へと歩いた。そこには、必死で飛竜にしがみつきながら降りているラヴィニアがいた。
「やっと降りれましたわ! あら、アイゼン様。ご用が終わりですか? 見てください。一人で降りられましたわ。フフフ。これで、アイゼン様はお役御免ですわね。私は一人で大丈夫ですわ……っきゃっ」
飛竜から一人で降りたラヴィニアが、ふふんと自慢げに胸を張った。その彼女を片手で抱き上げて飛竜へと乗せる。投げる様に乗せたせいか、うつ伏せになったラヴィニアが驚いて顔を上げると同時に、飛竜の手綱を引いた。
「……ええーと……アイゼン様? 私は、たった今苦労して降りたばっかりですよ!!」
ラヴィニアが、身体を起こして怒りを露にする。
羽ばたいた飛竜の下からは、執事やレアンが「アイゼン様――!!」と叫んでいた。
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