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しおりを挟むやっと復活出来た。それなのに、転生の術で生まれ変わったのは、身分の高い王女だった。しかも、父王に溺愛されている王女のせいで、城から出るのに苦労した。
痛い視線に気づいて顔を上げれば、アイゼン様が恐ろしい視線で睨んでいる。
ラヴィニアの父王も嫌だけど、こっちの怖い顔も嫌だ。
「アイゼン様……私は、途中で下ろしてくださっていいので、どうぞ睨まないでください」
「そうやって、また俺の隙を作るつもりか? 罪を増やそうとしても無駄だ」
「愛人は、解雇しましたよ……好きに生きればいいじゃないですか」
「そして、お前を途中で捨てたと言って、陛下からの罰を受けさせるつもりか。途中でラヴィニアを捨てれば、すぐに陛下の耳に入り、俺や辺境の地がどうなると思うんだ」
うん。疑心暗鬼の塊だ。
いったい、この女(ラヴィニア)は、アイゼン様に何をしていたのか。そもそも、王女が愛人を取ってどうする。
しかも、記憶喪失を理由に城から出たいと何度も説得して、やっと許可が下りたのは、辺境の地に帰るアイゼン様と一緒に行くことだった。
父王の言い分では、私を一人で城から出せないと言うし、大仰な護衛という名の騎士団をつけられても困る。だから、嫌だけど、しぶしぶ承諾した。
私は、王女ラヴィニアとして生きていくつもりがないからだ。
早く魔女の森に帰りたい。そのために城から出たいだけなのに。
「早く乗れ」
乱暴に身体を持ち上げられて、飛竜に乗せられる。私と一緒に帰ることに不快感丸出しのアイゼン様。それでも、一刻も早く自分の辺境の地に帰りたいのだろう。
そして、飛竜が一気に飛び上がった。
父王に、私と一緒に帰ることを良しとしないのに、厭々承諾するからだ。私と一緒でないと、城から出さないと、父王が宣言してしまったからだろうか。
まぁ、それでも辺境の地に行けば、どこかでバックレよう。王都から離れているから、すぐにバレないと思うし、その隙に追手が来る前に逃げれば問題はない。父王の大好きなラヴィニアはもうこの世にいないのだから。
「ラヴィニア。俺を解放したと言ったな」
「ええ。あなたは好きにしてください」
「城から出る理由は何だ?」
「記憶がないんですよ。王女である私が城にいてもみんなに迷惑をかけるだけです。それに、療養は必要ですよね?」
暗殺されたようだし、この理由で城からでることを必死で訴えて押し通した。
無言になったアイゼン様に振り向くと、訝しんだ表情の彼が私を見下ろしている。今にも殺されそうな眼から顔を逸らした。
「……ラヴィニア」
「何ですか?」
よく考えたら、王女であるラヴィニアを呼び捨てにするなんて、深い仲だったのは間違いない。愛人だったと言うし。でも、このラヴィニアを見る目は憎しみそのものだ。
「辺境の地には、連れて帰ってやる。だが、邪魔をしないでくれ」
「なんの邪魔ですか」
私はひっそりといたいのだ。生来、魔女は気まぐれで、私は地味な魔女なのですよ。
「婚約者のことだ。二度と傷つけるな。今度傷つけたら許さない」
「婚約者が好きなのですか?」
「当たり前だ」
「ふーん……まぁ、お好きになさってください」
ラヴィニアは嫉妬していたのだろうか。この言い方だと、愛人のアイゼン様の婚約者に、ラヴィニアが何かをしたのだろう。でも、私には何の意味もない。
ラヴィニアは、面食いだったのだろう。アイゼン様を筆頭に周りを固めていた騎士たちは、どれも身目麗しくて……一言で言えば顔が良すぎる男たちばかりだった。
後ろの突き刺さる視線に耐えて、アイゼン様の領地である辺境の地へと飛竜がひたすらに向かっていた。
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