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しおりを挟む「アイゼン! これはどういうことだ! ラヴィニアを守れなかったどころか、記憶を失わさせるなど……っ」
「俺が記憶を奪ったわけではありません」
懐から出した短剣を向けられても、アイゼン様は身動き一つしない。眉間にシワを寄せて、陛下に毅然という態度のアイゼン様には怒りが込められていた。
「あの、陛下? 刃は収めてください」
「いいのか? この男を処分してもいいのだぞ。辺境伯を攻め入って滅ぼしてもかまわん」
それは、困る。私は平和な国でのほほんと生きたいのだ。出来れば、静かな森に帰りたい。街には、たまに遊びに行くぐらいが、私にはちょうどいい生活スタイルなのだ。
「陛下……私が記憶を無くしたのがいけないのですね。どうか、お許しください」
「何といじらしい……お前のせいではない。悪いのは、美しいお前を暗殺しようとした者だ。すぐに見つけて始末しよう」
(それは、それで好きにして下さい。私には、関係ないし)
私の目的は暗殺者をどうこうすることではないのだ。でも、この陛下なら、私のお願いを素直に聞いてくれるかもしれない。何か欲しいものはないか、と言っていたし。
「では、俺はこれで……もう俺はお役御免でしょう。その様子では、何もできないでしょうし。俺は、この機会に辺境の地に帰らせていただきたい」
「そうか……ラヴィニアの許可は得たか?」
「ええ。それに、ラヴィニア王女は俺のことなど覚えていません」
鋭い視線で、二人が睨みあう。
「あの……陛下。アイゼン様を睨まないでください。それに、辺境に帰りたいのでしたら、どうぞ許可します。私は、覚えていませんので。それに、私もしばらく城を離れてもいいでしょうか? 今の私では仕事も出来ませんし……ご迷惑がかかるかと」
「国を憂いてくれているのだな……だが、大丈夫なのか?」
「もちろんです」
にこりとして笑顔を見せると、壁にもたれて腕を組んでいるアイゼン様が眉根を寄せて睨んでいる。先ほどから、何度もラヴィニアではないと怪しまれている気がしないでもない。
この身体はラヴィニアなのだけど。
「……そうか。確かに、しばらく城を離れたほうがいいのかもしれないな……暗殺の手もまだあるかもしれない」
確かに、そうかもしれない。その気持ちで、私を城から出して欲しい。
(頑張れ陛下。今が決断の時です)
密かに心の中で拳を握る。
「……では、供には王宮騎士団の一個部隊をつけるか……別荘は……」
ぶつくさと変なことを言い出した陛下。親バカなのだろうか。城から脱出したいのだ。だから、忍びでいいのだ。城をでたいのに、王宮騎士なんかつけてどうする。しかも、一個部隊だと言う。
別荘は欲しいけど、王族の別荘なんか周知の事実ではないだろうか、暗殺者にバレやすいと思う。
「陛下。忍びで行きたいので、私には何もいりませんわ」
「それは、無理な話だ。大事な娘に何かあっては……お前は、この国の至高の宝だ」
もうすでに暗殺という何かは起きましたけどね。そのおかげで、私は復活できたのだけど。
「……では、アイゼン。お前がラヴィニアに付け」
「は?」
「お前は腕が立つし、ラヴィニアを良く知っているだろう。記憶が戻るかもしれん。辺境伯領なら、警備も強固だ。そこなら、ラヴィニアに相応しい」
「俺は、たった今、ラヴィニア王女に、側近を解雇する許可をいただきましたが」
声音を強調させてアイゼン様が言う。どうやら怒っているらしい。
「帰ることを許可しただけだろう。そもそも、ラヴィニアを危険から守れなかった責任はあるのではないか」
「……ラヴィニア王女は気まぐれで、側近を追い出すことなど日常茶飯事ですよ」
どうやら、側近を追い出して一人で部屋にいるところを暗殺者に狙われたらしい。
呆れた様子で、アイゼン様が言う。
でも、私も城から出たいから、一緒に連れて行って欲しい。
「ラヴィニア。わかってくれ。一人では、城から出せない。アイゼンと一緒に行きなさい」
「はい」
(そのまま、城を出たらバックレようと思っているので、無理してお供をつけなくていいのです)
しかも、城から出られるこのチャンスの逃すわけにはいかない。
王女という身分は厄介だ。好きに出かけることさえままならない。
「よいな。アイゼン」
「俺は、辺境伯領に帰るのですよ」
「だから、ちょうどいいと言っておる。ラヴィニアもそうしなさい。アイゼンと一緒でなくては、城からは出さない。よいな」
アイゼン様は、この王城に帰って来るつもりはないというような言い方だ。でも、私には、ますます都合がいい。
一人で行きたいと強調して言ったせいで、この場にいたアイゼン様にご迷惑をかけるだろうけど……一人で出してくれないなら、仕方ない。
「……わかりました」
そうして、アイゼン様が辺境伯領に帰ることになり、私は一緒について行くことになった。
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