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礼儀正しい婚約者

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アレックスの元に戻ると、やはり心配はしていた。
最初は、いきなり知らない男に連れられて行ったのかと、思ったらしいが、見るからに私の知り合いにも見えてどうしようかと思ったらしい。
そして、アレックスがお話していた方に、「あの方は、今夜の警備責任者のリュード・エインズワース様ですよ」と、言われたらしい。
それで、連れて行かれた私を心配するも婚約者の方なら、と待っていたらしい。

そんなアレックスにリュード様は丁寧に挨拶をする。
お互いに初めましてだけど、雰囲気は和やかだ。

「いきなり連れ出してしまい申し訳ありませんでした」
「いや、こちらこそすみませんでした。こちらからも、エインズワース殿にお伝えしてから連れてくるべきでした。アシュリーも、まさかお伝えしてなかったとは……」
「リュード様は、今夜はお仕事だと聞いていましたから、ご迷惑をおかけしてはいけないと思いまして……」

そうしおらしく伝えた。
私の行動をリュード様に報告する必要はないと思うが、私と結婚をする予定で、リュード様的には、周りにはお互いに仲良く見えたほうがいいはずだ。
不仲に見えると、また婚約破棄するのか、と疑われてしまう。
しかも、私まで二度目の婚約破棄に突入してしまう。それは、さすがによろしくない。
それとも、リュード様ともしそうなったら街でも出て、やはり仕事を探すか……。
もっと魔法が使えれば、魔法師団に入隊できたかもしれないが、私は多少の魔法しか使えない。
元々魔力が低いから仕方ないといえば仕方ない。
それでも、フレッド様を追い出したり、護身用には役に立っているからこれで良しとするべきなのだ。

「アレックス殿、このままアシュリーを連れて帰ってもよろしいでしょうか? ほかの男に見初められては困りますし、元婚約者は、伯爵家の人間でしたよね。もし、夜会で遭遇してはいけませんので……」
「バーグナ伯爵家ですか……今夜来ますかね? 慰謝料のこともそうですが、少々様子が変なのですよ。バーグナ伯爵は、アシュリーと話したいそうなのだが……新しく婚約をしたことを伝えたら、青ざめて倒れてしまって……どうしたものかと……」
「まぁ、伯爵が? 言ってくれたら良かったのに」
「バーグナ伯爵が倒れてしまって話が進まないから、アシュリーを呼ぶのもどうかと思ってな。何故か、あの高級茶葉専門店のことを気にしていたぞ」
「……どうしてかしら?」
「さぁ?」

以前はフレッド様と婚約していたから、将来のためにと手伝いに行っていたけど、婚約破棄した今はもう、私には関係ないはず。
フレッド様も、いきなり結婚をしようなどと言い出す始末だし、一度バーグナ伯爵とは話す必要はあるかもしれない。

「バーグナ伯爵が落ちつたら、一度お会いしようかしら?」
「行く必要があるのか? あのおかしなフレッドという男もいるのではないのか?」
「いても私には近づけませんよ。私の氷に刺されたくはないでしょうし」

何故かリュード様は、顎に手を当てて考え始めた。
少し不機嫌にも見える。
フレッド様が近づいて来ても、問答無用で氷の魔法を使うから気にすることはないのに……なにか、ほかに気になることでもあるのだろうか。

「……リュード様?」
「……とりあえず、もうすぐで交代の時間だから、送ろう。アレックス殿、申し訳ないがこれで失礼させていただきます」
「こちらこそお会い出来て光栄でした」

アレックスとリュード様はお互いに悪い印象はないようで、握手をして別れた。
本当にリュード様は、紳士にみえる。外面が良すぎる。
そして、一緒に来たアレックスには悪いが、私が夜会に来たことを気にするリュード様に送られて、一足先に自分の屋敷へと帰った。






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