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黒いウェディングドレスは決別の合図
しおりを挟むゲオルグ様の待っている会場へと、リヒャルト様に連れられていった。
用意されたドレスは、私の希望通りの色だった。そのドレスをまといお城へとリヒャルト様のエスコートで入った。リヒャルト様は、まるでデビュタントの介添え人だ。
__その瞬間。会場が騒ぎ始めた。
「あれが、陛下の隠された妾?」
「まさか……」
口元を隠されても、ひそひそと話している声が聞こえる。
私を待っていたゲオルグも目を大きく見開いて私を見つめていた。
私が着てきたドレスは黒いレースで彩られた黒いウェディングドレスに黒いベール。装飾も立派でしょうと自慢できるほどだ。そして、黒いベールのおかげで私の『魔眼』は見られないで、ホッとした。
視線を感じて顔を上げれば、ゲオルグ様がこちらを見ている。
にこりとしてベール越しにゲオルグ様を見る。ベールで表情はわからないだろうけど……冷静な様子だったゲオルグ様が戸惑っているのがわかる。
ざわつく会場に居心地の悪さはある。こんな衆人環視のなかに来たことすらない私の緊張は計り知れない。
「ミュリエル!!」
ざわつく会場の中で、ゲオルグ様の低くて威圧感のある声が響いた。すると、一瞬で静まり返った。
ゲオルグ様が真っ直ぐに私を迎え出てきた。
「迎えに出られなくてすまない。どうにも抜け出せなくて……」
「そんな……お忙しいのですから……」
緊張しながら応えた。
「リヒャルト。ミュリエルを連れてきて助かった」
「はい。ゲオルグ様の大事な方ですから」
そう言って、リヒャルト様が一礼した。ゲオルグ様を見上げると、彼が寄りかかるように顔を近付けてきた。思わず、どきりとした。
「ミュリエル。嬉しいよ」
「あ、あのっ……」
「……受け入れてもらえないと思っていた。だが、思い過ごしだったようだ」
「ゲ、ゲオルグ様?」
「側妃も迷惑かもしれんと思ったが……予定通り、ミュリエルを側妃にあげよう」
「そ、そのことですが……このウェディングドレスが私の答えです」
「ああ、だから、気に入っている。受け入れてくれたのだろう?」
「あの……?」
なんだが会話がかみ合ってない。すると、ニコリとしたリヒャルト様がとんでもないことを言い始めた。
「ミュリエル様。黒いウェディングドレスは、『あなた色に染めて』と言う意味ですよ」
「……は?」
「いやぁ、良かったです。ミュリエル様が受け入れてくださらないならどうしようかと……」
「リヒャルト。俺だって意味ぐらい知っている。お前は下がっていい」
「そうします」
そして、リヒャルト様があととり濁さずに去っていく。
……『あなた色に染めて』
そんな意味は知りませんでした!!
ゲオルグ様は知っていても、私は知りませんでしたよ!!
普通のウェディングドレスは白いウェディングドレスのはず!
しかも、初婚だとオフホワイトカラーで……純白のドレスのはずだった。それが普通。だから、わざと反対の色のドレスを選んだ。わざわざ、色を指定してまで!!
だから、黒いウェディングドレスにした。私にとって、決別の意味で。
「ミュリエル。どうした?」
「あ、あの……」
ぱくぱくと、言葉が上手く出てこない。困惑するにもほどがある。
「ミュリエル。今夜からは君のところに行こう」
ひぃーーーーーー!!
熱っぽい視線を込めてゲオルグ様が耳元で囁いた。
頭がグルグルする。まさか、ゲオルグ様を気がつけば誘っている私。思わず、自分を刺したくなる。
全身が青ざめた。思考が追いつかずに、くらりとめまいがした。今、しっかりと出来ない。意識が遠ざかる自分に身を預けたい。
「ミュリエル!?」
気がつけば私は倒れて、ゲオルグ様がしっかりと支えていた。
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