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白い妾の困惑
しおりを挟む結婚式ではないと言ったのに……!
「ドレスはすぐにできませんよね!?」
「当然です。ですので、お直しで済ませられるドレスになります。正式な結婚式ではないので、今回はそれで十分でしょう」
突然にも、ほどがあるのです。
言葉が出ずに、立ち尽くしてしまう。
「ミュリエル様? 起きてます?」
今すぐに寝たい。すべてを夢にしたい。
「ミュリエル様――?」
呆然とする私にリヒャルト様が目の前で手を左右に振っているが、私の青ざめた顔は戻らない。
「あの……ゲオルグ様はご存知で?」
「当然です。すべてゲオルグ様の指示ですから。昨夜は、帰還してすぐに来られましたよね?」
リヒャルト様がニヤリとして聞く。
「来ました……」
来てわけのわからない告白をされた。それは、夢じゃない。なかったことにしようと思ってました。忘れて、後宮をお暇しようと考えていました。
「ですよね。でも、ゲオルグ様はお忙しいので、今朝は来られなくて申し訳ございません。お詫びも兼ねて好きなドレスも注文するように、とも言い使っています」
いらんことを素直に聞いてこないでほしいのです。
私のこの倒れそうな青ざめた顔をしっかりと見て欲しい。
「こちらのドレスがお気に召さないようであれば、こちらのカタログからお選びください。すぐに、ご準備いたしますので……」
そう言って、リヒャルト様が何十枚もあるドレスのカタログを見せてくる。しかし、受け取れずに手が出ないでいる。
ゲオルグ様に感謝した。アルドウィン国で、ルイス様と別れるしかなかった。バロウ家には居場所はなかった。
あの時は、一人でひっそりと逃げようとも考えていた。
何もかもが嫌になっていた。
それが、ゲオルグ様が後宮に入れてくれた。至れり尽くせりの後宮に、私は初めて穏やかに過ごしていた。
毎日美味しい食事にお茶を出してくれる。ルキアにもおやつを密かに出してくれていた。
癒されたと思う。
形だけの妾には、社交も必要がなかった。だから、一人で誰にも迷惑をかけずに過ごせた。
ゲオルグ様が戦に行かれて、毎日彼の無事を祈った。
そんなゲオルグ様に迷惑をかけられず、自分の境遇や『魔眼』のことも考えて、後宮の使用人を必要最低限にして、後宮費はなるべく使わないようにとした。
ゲオルグ様には、迷惑一つかけたくなかったのだ。
そんな環境を私にくれたゲオルグ様には、感謝しかない。
だから、形だけの白い妾よりも、陛下として相応しい令嬢を妃として迎えてほしいと思っていた。そのために、いつでも別れるつもりだった。むしろ、陛下となって立場が変わったゲオルグ様のために、一刻も早く別れるべきだと考えていた。
あんなに素敵な外見なら、どんな令嬢でも迎えられる。好きな女性がいれば、なおさらだ。
私は白い結婚どころか、白い妾なのだ。
それが、いきなり結婚式に困惑する。正式な結婚式でなくてもだ。
そう思えば、私のやることは一つだ。
「ミュリエル様?」
「……あ、あの……ドレスはどれでもいいのですか?」
「ご希望があればどうぞ」
リヒャルト様がニコリとして言う。
「で、では、このようなドレスをお願いします」
「……それでいいのですか?」
「ぜひ、その色でお願いします!」
とりあえず、白いドレスは不味い。妃を彷彿させるわけにはいかない。
決心して言うと、リヒャルト様はさらに笑顔で返事をして「すぐにご準備いたします」と言って去っていった。
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