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縋る光は儚くて
しおりを挟む__数日後。
すぐに出ていけと言っていたのに、私は未だにバロウ邸で監禁されていた。
それでも、明日には田舎の山小屋へと引っ越すことになっていた。少しホッとした。これで、この家から出られる。お父様たちの折檻が終わるのだ。
「ここを開けろ! 何をなさっているのかわかっているのか!!」
「我が家のことだ! いくら将軍といえども口を挟まないで頂きたい!」
「……っ! どこまでミュリエルに不当な扱いをすれば気が済むのだ! 傷ついた娘を屋根裏部屋に監禁するなどっ……」
部屋の外から言い合っている声が聞こえた。声の主は、同じ遺物持ちのチェスター・レーバセルス将軍だ。彼は40歳を超えるアルドウィン王国の将軍様だ。屈強な体躯に、レーバセルス伯爵家の当主であり、チェスター様はレーバテインと言う剣の遺物を身体に宿している。
「バロウ伯爵。そこまでにしていただこう。チェスター。バロウ伯爵を押さえろ」
部屋の前に一つの足音が聞こえると、「ミュリエル。少し離れていて」と優しい声で言われた。久しぶりに聞いた声はいつも通りの優しいルイス様の声だった。
そして、ルイス様の光魔法で、扉が音を立てて壊れた。
「ルイス様……」
「ミュリエル。一緒に行こう。君を城で保護する」
「私……でも、行けません……明日には、ここを離れて山小屋で一人住むことになっています」
「……っ!」
ルイス様が、心痛な表情で私の前に屈んだ。チェスター様も哀れんだように見ていた。
「父上には、話はつけている。頼む。一緒に来てくれ……」
「……」
素直に頷けなくて、そっと目を反らした。
「……頬を殴られたか……ミュリエル。ここには置いておけない」
ルイス様との関係がバレてから、毎日毎日お父様と兄上に折檻を受けた。
母親はすでに他界している。でも、お母様も私を疎んでいた。
私が『魔眼』を持って生まれたせいで、何度も責められた。大事に育てていた兄上が当主となれないからだ。時には、それをお父様に責められて、それを私にそのままぶつけていた。
ルイス様が頬をそっと撫でる。チェスター様がお父様たちを睨みつけると、気まずそうにお父様たちが目を反らした。
「ミュリエルになんて真似を……」
チェスター様が怒りを込めて言う。
「わからせるためだ……娘に何をしようが、あなた方には関係ない。それに、ルイス様。ミュリエルに関わったら、陛下が何と仰るか……っ、我が家のこともそうです。ミュリエルのせいで、あらぬ濡れ衣をかけられて……王家転覆を図っていると疑われているのですぞ!」
「……少し黙っていてくれるか。父上に話はつけていると、ミュリエルに言ったはずだ。君とは話したくない」
ルイス様が侮蔑を込めた瞳でお父様を睨みつけた。
「ミュリエル。さぁ、行こう。ルキア。お前もいるんだろう。一緒に行こう」
ルイス様がルキアと呼ぶと、ベッドの隅から手のひらサイズのスライムがひょこっと出てきた。私の使い魔だった。『魔眼』の力で大人しくさせたスライムだけど、今は私に懐いているおかげで、使い魔にしていた。
ルキアが私の肩に乗る。そうしてルイス様に支えられて部屋を出ると、お父様たちは侮蔑を込めた表情で私を睨みつけた。その前をルイス様に支えられて、チェスター様の威圧感の中で通り過ぎてバロウ邸を去った。
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