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魔眼令嬢
しおりを挟む__16歳。
私がいたバロウ伯爵家は、『魔眼』という遺物持ちの家系だった。そして、一族の誰かが代々遺物である『魔眼』を瞳に宿す一族。『魔眼』を宿した一族の者が当主となる決まりで、それは代々直系の第一子に受け継がれることがほとんだだった。
それが、私の代では兄上でなく、第二子である私に『魔眼』が受け継がれた。
祖父は『魔眼』持ちだったけど、父上も兄上も持ってない。父上は遺物持ちではないけど、それでも祖父が他界してからは、直系であったために父上が爵位を継いで当主となっていた。
そして、次の当主は私になるはずだったが、兄上がそれに意を唱えた。
遺物持ちでなくても、当主とは別に据えるべきだと唱えたのだ。そして、兄上が当主として育てられ、私が18歳になるまでは兄上が当主代わりをした。『魔眼』持ちでなかった父上は、兄上に当主になって欲しかったのだろう。
第一子の兄ではなく、私が『魔眼』を宿していたことを酷く疎まれていた。むしろ、そのせいで、父親は兄を余計に可愛がったのかもしれない。
そして、『魔眼』を宿した私は人目を避けて過ごすことを余儀なくされた。
『魔眼』は人や魔物を支配する可能性のある遺物だからだった。それでも、遺物持ち同士は『魔眼』が効きにくいことから、遺物持ち同士の交流は少ないながらもあった。
__パンッ!!
「なんてことをしてくれたんだ!!」
書斎へ呼び出した私を、お父様がひっぱたいた。
理由はわかっている。同じ遺物持ちの、アルドウィン王太子殿下であるルイス様と密かに恋人になり逢引きをしていたからだ。
「我が家を潰す気か!? 王家を乗っ取るのかと、疑われているんだぞ!」
私は遺物持ち。王族であるルイス様も、遺物を身体に宿している。王族も遺物持ちの家系なのだ。
そのせいで、私とルイス様は結婚すらできない。だから、別れるしかない。一緒にいることを陛下たちは良く思わない。
王族が代々受け継がれている遺物が次の世代に受け継がれない可能性が少しでもある遺物持ちの私とルイス様は、交われないのだ。
私とルイス様が結婚して、私の『魔眼』だけが子供に受け継がれることになり、ルイス様の家系が守っている遺物が受け継がれないことを恐れているのだ。
アルドウィン王国では、身体に宿す遺物持ち同士の結婚は望まれない。私の『魔眼』は必ず私の子孫へと繋がるし、ルイス様の遺物は必ずルイス様の子孫へと受け継がれるからだ。
そして、別れようとしていた時に、私とルイス様が恋人だと周りにばれてしまった。
すぐにバロウ家当主であるお父様が陛下直々に呼び出されて、酷い𠮟責を受けた。そして、今は、それを私にぶつけていた。
「すぐに出ていけ。田舎の山小屋で謹慎だ。次の当主もお前には譲らん!」
「……当主は遺物持ちだと決められています。他の遺物持ちの家が何といいますでしょうか」
「次の当主は長男のダレンだ!」
お父様が憎々しく言う。
陛下に、「王家を乗っ取るつもりか!」と言われたせいだろう。
「次の当主は、私だ。僻むなよ!」
兄上が、どこか勝ち誇ったようないびつな表情で言う。
彼は、私に当主の座を奪われて憎く思っているのだ。私が遺物を宿して生まれなければ、当主の座は安泰だったのだから……後から生まれた私に、しかも女である私に奪われて、私を恨んでしまっている。それなのに、いつしか私が当主の座に固執していると、兄上は思い込み始めた。
遺物持ちの家系以外は、男が当主になることが普通のこの国。兄上もそうであるべきと、誰よりも思っている。
でも、そんなことは認められないだろう。遺物持ちの家系として、バロウ家は有名なのだ。
だけど、バロウ家だけは当主のほとんどが人目にさらされない。遺物が人を魅了する『魔眼』という厄介なものだからだ。
お父様は遺物をもってない兄上を可愛がり、私を外にはほとんど出さなかった。
『魔眼』持ちの私が人を魅了する可能性があるからだ。
ずっと自由に外には出られなかった。それを、お父様は同じ遺物持ちの家系の人に進言されたこともある。なぜ、ミュリエルを出さないのかと……。
少なくとも、同じ遺物持ちの家系には遺物の能力は効きにくい。だから、私が外にでて会えるのは、同じ遺物持ちの家系の人だった。
そして、私の境遇を知ったルイス様が私を労り、いつしか恋仲になった。
屋根裏部屋に乱暴に連れて行かれて鍵を閉められた。
ベッドサイドに座り、赤く腫れあがった頬を押さえると痛かった。
そうして、涙が一粒零れた。
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