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また来ても

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食事の後は、遅くなると悪いからと早々に送って下さることになった。
クロード様の紳士の振る舞いは完璧だった。
偽物の彼女の私に、きちんとエスコートして下さり、本物の彼女だと錯覚しそうだった。

邸に馬車が到着してもすかさず先に降りて、私の手を引いて降ろしてくれた。

「もう夜だし、遅いとご家族が心配するだろうから、挨拶をして帰ろうか。」

心配はしてないと思いますけどね。
そんな話をしながら、クロード様は門から平屋までも送って下さるそうで、二人で並んで歩いていた。
結構律儀な方だと思う。

「挨拶は大丈夫ですよ。今は私は邸ではなく昨日クロード様が来られた平屋に住んでいますから。」
「庭の平屋に?」

そうですよ。
驚きましたね。

「どうしてだ?」
「色々事情がありまして…でも、意外と快適です。もし、ご用があれば邸ではなく直接平屋にお越し下さい。」
「また来てもいいのか?」
「勿論です。クロード様なら歓迎しますよ。」

お食事もご馳走になりましたしね。

「お茶でも飲んで行かれますか?」
「しかしもう夜だぞ。」
「真っ暗ですからね。平屋にも灯りくらいありますよ。」
「そうではなくてだな…」

クロード様は口元を手で抑え、横を向いて考え込んでしまった。
やはり、公爵様のご子息だから、こんな平屋は躊躇するのだろうか。

「…明日また仕事の帰りに来ていいだろうか?」
「勿論です。では明日お待ちしますね。」

そして、平屋の前に到着し、くるりとクロード様に向かい合った。

「お食事ありがとうございました。楽しかったです。」
「いや…」
「明日またお待ちしてますね。」
「必ず来るよ。」

そう言ってクロード様は私が平屋に入るまで、平屋の前で立っていた。




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