婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽

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彼女のフリをして欲しい

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昨日はあの後、アイリスさんに店番のお礼だと花をタダで頂いた。
花を部屋に飾ると中々いい感じだった。

快適だわ!

この平屋なら妹も来ない。
何も取られることもなく、我が儘に振り回されないで済む。

邸にはまたハロルド様が来ているだろうが、会わなくてすむし、凄く精神的に楽だった。

そして、夕方になり夕食は邸に行くか、この平屋に簡単なものを持って来てもらうか考えていると、血相を変えたお父様がやって来た。

「ラ、ラケル!お客様だ。身嗜みはきちんとしているか!?」
「この普段着ではいけませんか?」
「バカ者!何故ドレスを着てないのだ!?」

バカ者とは何ですか。
むしろ何故ドレス!?
夕食はまだですよね?
どうしようか、考え始めたところです。

そう思うと、お父様の後ろから男の方の声が聞こえた。

「伯爵、無礼は俺の方です。約束も取り付けず急に来たのですから。」

お父様の後ろから現れたのは昨日の男前の騎士様だった。

騎士様はお父様の後ろからジロリと睨んでいた。
どうやら、お父様は後ろの視線に気付いているのか、冷や汗がタラリと出ていた。

「急な訪問ご無礼をお許し下さい。」

騎士様は胸に手を当て一礼をした。
そして、自己紹介をする前にお父様の方に振り向いた。

「失礼ですが、ラケル嬢と少し二人でお話がしたいのですが…」

お父様は騎士様にそう言われると、どうぞと素直に下がった。
その様子からこの騎士様はお父様より身分が上だと思った。

「あの…こちらにどうぞ。狭いところですが。」

本当に狭くてすみません!

「お茶を邸から今お持ちしますので…」
「いや、お茶はいい。」

お茶は断られ、いいのかしらと思いながら、椅子に座り向かい合うと、騎士様は自己紹介から始めた。

「俺は、クロード・アラステアと言います。昨日花屋でお会いしたことを覚えていますか?昨日は本当にありがとうございました。」
「いいえ、予約をされた騎士様ですよね。」

しかも、アラステアと言えば、聞き覚えがある。

「アラステア公爵様ですか?」
「アラステア公爵は父です。」

どおりでお父様が恐縮していたはずだ。
急に、公爵家の方が私を訪ねて来たのだから。しかも、約束なしで。

「…ご用件は?」

クロード様は言いにくそうに、拳を握っていた。
一体私に何の用があるのか想像も出来ない。
昨日の花屋では粗相はなかったはずだ。
他にお客様もいなかったから入り口まで、ありがとうございました。と挨拶をしたし、不満や文句を言いに来たとは思えない雰囲気だ。

「実は…頼みがあるのです。」
「頼みですか?」

思わず、生唾を飲み込むような沈黙が流れた。

「…実は…」
「はい…」

ゴクリと本当に生唾を飲み込み、クロード様を凝視した。

「…俺の彼女の…フリをして欲しいのだ。」
「…は?」

耳を疑うような言葉だった。



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