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第四章 それぞれの生活
112話目 話し合い
しおりを挟む「お姉ちゃん? 気分はどう? 大丈夫?」
「えぇ」
そう言って姉はスッと立ち上がった。
また父に向って飛びかかるのかと思いきや、ゆったりとした足取りで父のもとへと歩み寄った。
私達はその姉の動きを見守った。
「つまり元凶はあなたたちとあんたなのね」
椅子に座る父を見下すように姉がとげとげしい視線を投げつける。
「……あぁ」
父は否定せずに真正面から姉の視線を受け止めた。
バチン!!!!
頬を張った盛大な音がリビングに響いた。
父は今度は避けもせずに姉の張り手を受け止めた。
「つまりこの病の謎も母が倒れた理由も三波室長が倒れた原因も魔力のせいなのね」
「……あぁ」
真っ直ぐな視線で姉を見つめ返す父。
「……はぁ」
姉は大きく息を吸い吐き出した。
私とメルディスさんは成り行きを見守った。
そして姉は空いている父の横の席へと移動し乱暴に腰を下ろした。
「んで? どう落とし前つけんの」
今度はメルディスさんにメンチを切った。
「落とし前……でしょうか?」
「えぇ」
にっこりと笑う姉。
「何が望みでしょう」
「撤退」
「つまり元の世界に帰れという事でしょうか?」
それに微笑みで返すメルディスさん。
「そ。 魔力のせいで病気にかかる人が居るならあなたたちが居なくなれば問題は解決するんでしょ?」
にっこりと笑みを浮かべたまま言い切る姉。
「遥」
「お父さんは黙ってて、あなたは優奈を危険に晒したの。 文句言う資格は無いよ」
父の方を見ずにそう言いきる。
えっと……?
混乱してきたよ。
お姉ちゃんはメルディスさん達に元の世界に帰れって言ってるでしょ?
お父さんはメルディスさん達を元の世界に返したくない?
同情してるっぽいし?
ミーリアは私と同じく話についていけてない。
ちょっと説明を求む!!
「……それは難しいですね」
「何が?」
「まず、魔力はもうこちらの特定の人々からも発生しています。 我々が仮に元の世界に戻ったとしても魔力が無くなることはありません」
「は?」
メルディスさんの言葉に思わずと言った感じで言葉が出てしまった姉。
「次にこちらの世界に来るときに魔力を使いすぎました。 魔力を使いすぎてまだ目覚めていない者も大勢います。 転移には膨大な魔力が必要です。 すぐにあちらの世界へ帰ると言う事は出来ません」
努めて冷静に丁寧に質問に答えるメルディスさん。
「は?!」
「お姉ちゃんそれは本当だよ。 私もあっちで目を覚まさせる手伝いしてたもん」
メルディスさんの言葉に私が慌てて補足をする。
「え? まって……それじゃ私達職持ちが居る限り魔力は生み出され続けるって事? 魔力を無くすには私達に死ねって言うの?!」
「どういうこと?」
ただメルディスさんから与えられた情報に混乱した姉の耳には入っていないようだ。
「私たちもついさっきその事実を確認したばかりです。 その対処法をこれから考える予定でおります」
「あー……」
なんで死ぬことになるの?
姉の思考について行けずに首を傾げる。
「あーーーーー……んで?!」
なにかをこらえるように姉が頭を振った。
そんな姉と目が合う。
「まずどうやって治すの? と言うかどうやって治したの? 私のスキルは効かなかった、回復薬も効果なかったわ」
「スキルを使ったの?!」
「使ったわよ。 魔力中毒なんて知らなかったから使っちゃったわよ!!」
やけになったように声を張り上げる姉。
「……その方は?」
「……病院に運ばれたわ」
言いにくそうに姉がポツリと呟く。
病院って今混乱中の病院?
「お姉ちゃん……攻略室の人?」
「そう。 亘理さんに代わって室長になった三波さんよ」
「三波さん?」
「……うん」
「そうですか……」
そこで何かを考えるそぶりを見せるメルディスさん。
「お姉ちゃん、魔力中毒は魔力を吸い出せばいいらしいの。 お母さんに溜まってた魔力はお父さんが吸い出したよ」
私が母の病と同じかもしれないと思い口に出す。
「その方法は?」
「なんか魔力吸引ってのをかけてた。 そしたらお母さんの体からなんか靄みたいなのが出て行ったの」
「お父さんはそれが出来るのね」
私と姉で話している間にメルディスさんと父が何やらこそこそしていた。
治療方法があることに姉は幾分安心した様子だ。
「提案があるのですが宜しいですか?」
「……何」
「私をその方の病室まで連れて行ってください」
「は?! 無理に決まってるでしょ!!」
「私達が処置した方が早い、少なくともこちらには治せる者がいない」
「その魔力吸引を私が覚えればいいだけの話でしょ? やり方を教えなさいよ!!」
「それは構いませんが……その後どうします?」
「その後……っどこで覚えたか、について?」
「そうです」
「そんなもんレベルアップで覚えたって言っておけばいいでしょ。 それに貴方を連れて行って治しても後々困るのは同じじゃない」
「我々のことは貴女が知らぬ存ぜぬで通せばいい。 それに魔力吸引はレベルが上がっただけでは覚えられません、それが知られたときあなたは疑われますが宜しいんですか?」
何かを探るように見つめるメルディスさん。
その言葉にぐっと答えに窮する姉。
「下手をすると捕まるかもしれませんよ。 もしくは見せしめになるかも、こちらの人々がどういう対応をとるかは分かりませんがあちらではそうでした」
悪と決めつけた人間は冷酷です。 とさらに付け足すメルディスさん。
あちらの世界の人たちに苦労させられたんだな。
「っそんなの……父があんたらに手助けしてる時点で同じでしょ!!!!」
そう言って姉は父に向って指を指した。
お姉ちゃん、私も手を貸しちゃってるよ……。
その様子を私はそう思いながら眺めていた。
「だから私が行って治して貴女は知らぬ存ぜぬの方が被害が少ないでしょう。 いや、まず一度話を整理しましょう。 そちらの情報とこちらの情報を擦り合わせが必要です」
ニッコリと笑みを浮かべるメルディスさん。
「はいはい!! 私が書記やります」
情報の擦り合わせには必要だよねと手を挙げ立候補する。
姉たちが呆気に取られているうちに自室からノートを持ってくる。
「あ、お姉ちゃん私のスマホ知らない? 録音もしたいんだけど見当たらないんだよね」
「スマホは私が持ってるわ、ただし充電してないから使うなら充電してね」
姉が自分の自室から私のスマホを持ってきてくれた。
「ありがとう!!」
久しぶりのスマホ嬉しい。
早速充電器に差し込み充電を開始した。
「では早速どうぞ」
私が皆んなに話を促す。
「……はぁ」
姉がため息を吐き息を吸い込んだ。
「まず、 お父さんはどうしようとしてたの? 話が世界規模で広がっているけど一人でなんとかできるもんなの」
「……できないな」
「できないなら報告、連絡、相談!! んなこと私でも知ってるわ!! 家族に内緒にすんなアホかっ!!」
「……すまない」
めっちゃ正論で叱られてる。
「それでそっちの……」
姉がメルディスさんを呼びかけようとして言葉を詰まらせた。
「名乗りが遅くなって申し訳ない。 私の名はメルディスと申します」
「私はミーリアだヨ」
「……橘遥です」
互いに軽く頭を下げる。
ゴタゴタがあったせいで忘れてたけど自己紹介してなかったね。
「メルディス……さん? なんで室長の治療の申し出をしたんですか」
名乗ったおかげか姉に冷静さが戻ったようだ。
「それなりに立場がある人物の反応が気になったのです。 私はまだ貴女という人物が分からないが……少なくとも魔王様が助けを求めるくらい信頼する優介の娘です。 闇雲に声をかけるよりも害意のない可能性は有ると思ったまでですよ。 事実貴女からは優介に対する怒気は感じられど我々に対し悪意が感じられません」
そう言ってにっこりと笑うメルディスさん。
お姉ちゃんを信頼してますよアピールかもしれないけどなんかまだ隠してるような気がするよ。
なんか私たちが知らない魔法使ってない?
「……それはどうも」
それからは姉から現在の魔力中毒の広まり具合を聞き、
メルディスさんからは何故こちらに来たかの説明がなされた。
その後話は魔力中毒とはという解説に入った。
「私としては上に報告……優奈のことを知っている亘理さんに話をしたい。 この病気? 症状? ダンジョンが……というか私たちが生きていく上でなんとかしなきゃいけない「亘理とは男性か」
ここで黙っていた父が口を挟んだ。
「……男性だけど何?」
「彼氏か」
父のその一言で姉が父へ向ける視線が更に冷ややかなものへと変わった。
「……お父さん。 これ以上私を幻滅させないで」
「ユースケ……それは無いヨ」
「今はそんな話してないよ……」
「俺の可愛い遥が……」
何を勘違いしたのか父は血の涙を流しそうなほど悔しそうにしていた。
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