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第四章 それぞれの生活
108話目 3人組
しおりを挟む「おい、ちょっと落ち着け」
「遥……良くない」
ダンジョンに潜り魔物をナイフで討伐する。
防御特化の私は優奈の誘拐以降接近戦を強化するべくナイフで戦いを挑んでいた。
今は18階まで到達していた。
オークの群れに遭遇し最後の1体を討伐すると、一緒に潜ってくれている五十嵐と葵に落ち着くよう声を掛けられた。
そんな二人に背を向け、滴る汗を拭い落ちたアイテムを回収する。
オークの肉美味しいって評判だったな……。
関係ない事を考えて気を紛らわそうとする。
どんなに頑張っても焦りが消えない。
こうしているうちにも優奈が酷い目に会ってるかもしれない、母の病気は何なのか。
父も無事なのか。
「ごめん。 経験値独り占めしちゃった」
表情を取り繕えなくて背中越しにそう二人に謝罪した。
「いやそれは構わん」
「うん、別に良い」
二人の声はあっさりと許してくれた。
経験値は貢献度によって貰える量が変わる。
「ありがとう」
経験値を多く貰う事を了承してくれたお礼を言う。
「いや、そうじゃなくて……」
そうすると五十嵐から、らしくない歯切れの悪い言葉が出た。
「遥が死んだら元も子もない。 妹さん悲しむ」
「……そうだ。 妹が返って来てお前が居なかったらきっと悲しむぞ」
優奈……。
二人に妹のことを指摘されて懸命に蓋をした気持ちが溢れそうになる。
「分かったようなこと……言わないで……」
私を気遣ってくれる二人の気持ちは分かる。
ただ今の私には些細な刺激が辛い。
二人の気持ちは分かるが、それによって感情の限度量を超えた気持ちは抑えることが難しくなっていた。
「無事に帰って来るかもわからない、今どこにいるのかもわからない。 私はっ……私が強くなって優奈を守らなきゃいけないのっ!! 今もこうしているうちに酷い目に会ってるかもしれない……一秒でも早く強くならなきゃいけない!! なのにレベルは全然上がらない!! どうやって焦るなって言うの?!」
二人に当たってもしょうがない。
こんなの八つ当たりだ。
二人には関係のない事だ。
私にしょうがなく付き合ってくれてるにもかかわらず八つ当たりが止まらない。
「それで?」
それなのに五十嵐からはさもなんともないような返事が返って来た。
「何がそれでなの?」
その返答にも苛立ちを覚えてしまい語気が荒くなる。
「俺らはそれで焦ってお前が死んだら意味が無いって言ってんだ。 話を聞け」
「っ聞いてるじゃない!!」
半ば反射的にそう反論する。
こっちが答えているのにまるで理解をして貰えない。
それに余計苛立ってしまう。
「……まずは一旦深呼吸。 遥出来る?」
冷静な二人に余計感情が高ぶる。
私の事分からないのになんでそんなに突っかかって来るの?
理解する気が無いならほっておいてほしいのに!!
「八つ当たりは悪い事じゃない。 今お前が色々抱えているのは理解している。 はけ口が必要なのも分かる。 今ここには俺らしかいない。 気持ち吐き出したいなら吐き出せ。 俺が居たら嫌なら結界でも張れ。 俺に聞かれたくないならそれでも構わん」
「遥が妹さんを心配なのは理解してる。 だけど私たちは遥が心配。 五十嵐で発散したいならすればいい。 頑丈だから殴っても死なない」
「俺だけ物理攻撃か」
淡々と二人にそう言われた。
いつも通りの声色だけど何かが私の心に届いた。
そっと振り返り二人を見る。
二人は真剣な表情でこちらを見ていた。
私は家族が心配だった。
心配で心配で何をしてても心の中が不安でいっぱいになった。
だから二人が何を考えて付き合ってくれるのかとか全然理解してなかったんだ。
私が家族を心配するように二人も私を心配してくれて付き添ってくれていたんだ。
はぁーと体中にため込んでいた息を吐き出す。
そして新鮮な空気を吸い込む。
不安は消えたわけではない。
でも少し薄くなった気がした。
「……二人ともいつもそんな顔じゃない……分からないわよ」
そして二人に力なく笑いかけた。
「私達表情表に出すの苦手、でも心配しているのは本心」
「……葵、ありがとう」
なんだか久しぶりに二人の顔を見た気がする。
「どう致しまして」
そう言って珍しく葵が笑った。
「俺も忘れるな」
「はいはい、五十嵐もありがとう」
「おう」
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