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第四章 それぞれの生活

93話目 錬金塔

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「お父さん、錬金術ってお父さんが教えてくれるの?」

進路のことは心配だがここから帰る方法が分からない。

……お母さんもお姉ちゃんも心配してるよね……。

母と姉のことが気がかりだけれども、私にはどうする事も出来ない。
どうしようもない事は悩んでも仕方がない。

気持ちを切り替えて自分が出来ることをやろうと思った。

父とミーリアとめー爺と一緒にお城の廊下を歩く。
廊下は綺麗に磨かれており塵一つ落ちていない。

窓の外を見れば何やら空をいろんなものが飛んでいる。
興味を惹かれる物ばかりで目移りしながら歩みを進めた。

外にはいろんなものが居るのに室内は私達が歩く音だけが響いていた。

「俺も多少使えるが……我流だから本職に教えてもらう。 魔族一は……寝てるからその弟子だな」

「魔族一の弟子!! なんとも心惹かれるワード!!」

父にも心配させない様に明るくそう言った。

そして連れていかれたのはお城を出て、隣の円形の建物だ。

近くには手入れの行き届いた畑のようなものもあり草花が植えられている。
木には、木の種類だろうか、名前が書かれた紙が紐で括り付けられてあった。
快復薬の薬に樹液ってあったくらいだもん。 そういうので使うのかな?

樹木の隣には温室もいくつか完備されていた。
温室には温度や湿度の他に魔力濃度という記載もあった。

どれも畑も温室も広さはそれぞれグラウンド一つ分ぐらいはありそう。
というか樹木に至っては森との境目があやふやだ。

ふへーっと眺めていると建物にたどり着いた。

「ここなの?」

「そうだ、ここが錬金塔だ」

中に入ると目の前に飛び込んできたのは螺旋階段。

それが上場でずっと続いている。
塔の中に足を踏み入れれば壁に設置された灯りがついた。

「電気ってあるの?」

灯りがついたのを見て首をかしげる。

「電気はないな……あぁ、あれは魔道具だ。 魔石が動力になってるぞ」

「そうなの?!」

そう言われて近寄ってみる。
壁に設置された魔道具は丸いガラスのような物で中心部分から光を放っているようだ。
これが魔道具なのかぁ、へーっと周りをウロウロして眺めた。

「優奈、いくぞ」

「あ、はーい」

父とミーリアとメー爺は螺旋階段にたどり着いていた。
魔道具を眺めていた私を待っている形だ。

慌てて皆の下に駆け寄り登り始める。

「……エレベーターとかエスカレーターはないんだね」

こう……乗ったら浮遊する魔道具とか、目的地まで自動で移動できる魔道具とかさ。

「ないなぁ。 ミーリアみたいに飛べる奴もいるからな」

言われてミーリアを見るとふよふよと浮いていた。
浮きながらついてきていた。 何それ羨ましい!!

「ここって何階まであるの?」

「ここか? 確か15階だっけか? 8階までが錬金術の作業スペースでそれ以降が住居スペースだったはず」

「そうなんだ。 住居も一緒なんだ」

「錬金術師の身の安全を図る意味合いもあるぞ」

「そうなんだ」

そう言って雑談をしながら階段を登り、8階までたどり着くと壁のドアを開けた。
体力もついてるから息切れなんてしなかったけどね。

ドアを開けると螺旋階段の壁に沿って廊下があり、その壁の反対側が部屋となっていた。

「このフロアは部屋が4部屋しかない」

「他のフロアはもっとあるんですか?」

「あぁ」

そう言って父はひと際豪華な扉ではなく、普通の扉を開けた。

「ルヴァルダン、ちょっといいか?」

「あ、勇者様なんですか?」

「ルヴァたんちーっす」

「……ミーリア様もどうしたんですか?」

ルヴァルダンと呼ばれたのは12、3歳に見える男の子だった。
耳の先が細くなっている。
エルフ耳とかそんな感じ。

……エルフなのか?!

表情には出さず、内心興味津々で見つめた。

ルヴァルダン君はミーリアに声を掛けられると嫌そうな顔をした。

「ルヴァ、ちょっと頼みがあるんだ」

「なんですか?」

父に対しては凄く好意的だ。
憧れの対象が目の前にいるような表情をしている。
ちょっと可愛いな。

「娘に錬金術を教えてほしいんだ」

「え……」

そう言われると彼は分かりやすく固まった。

「ミーリアも応援するヨ!!」

「そう言うのは良いんで」

きっぱりと拒否するルヴァルダン君。
ミーリアのノリが苦手なのかな?

「この子が娘の優奈だ」

父に背中を軽く押されて前に出される。
ルヴァルダン君に上から下まで値踏みされるように眺められた。

「ルヴァ?」

「あ、すみません」

値踏みされるような視線が気に食わなかったようで父の声が低いものになった。

「わ、私の方こそすみません、橘優奈です。 父の娘です、よろしくお願いします」

慌てて父とルヴァルダン君の間に割って入る。

……なんだかお父さんここに来てからいつもと様子が違う気がする。

前は相手を威圧する様なんて見たこともなく、お母さんと私達にただただ甘かっただけなのになと思った。

「……ルヴァルダンです、宜しく」

仏頂面したルヴァルダン君が仕方ないような感じで挨拶をしてくれた。
なんだか錬金術教えてくれそうにないんだけど大丈夫かなと一抹の不安を覚えた。
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