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第三章 進路とダンジョン攻略

86話目 室長との話し合い

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ダンジョン攻略室


「亘理室長、お時間を作っていただきありがとうございます」

「いや、構わんさ。 で、橘君の妹が職持ちだって?」

「はい、こちらの動画を見てください」

駐屯地での訓練前に、三波さんへ話を通し、亘理室長に面談の時間を取ってもらった。
スカウト班よりも先手を打たなければいけない。



ー今思えばその時の私は焦りがあったんだと思う。



ネットに上がっている動画を見せれば亘理室長は眉を寄せた。

「……凄いな。 アスファルトを粉砕か。 で、探索者にしたいと?」

「いいえ」

「違うのか? てっきり紹介だと思ったんだが。 うちとしてはありがたい話なんだがな」

断りを入れる私に怪訝そうな表情を見せる。

「本人に確認したところ既定の年齢に到達し自身の力で資格を勝ち取りたいとのことです」

「……妹さんこれ以上力を付ける気なのか? 今いくつだ? 物理でダンジョンを破壊する気か……出来そうな気がするのは私だけか?」

亘理室長はパソコンの静止画と私の顔を何度か往復して唖然としたような表情を浮かべた。

「……それでは相談内容はなんだ? 流石に職持ちだからってだけで所属でも無い者を庇護する訳には行かないんだが……」

そうだよね。 
ここにきて自分がうかつだったことを理解した。

スカウトが来て優奈の職業がバレるのを防ぐ目的だったけど話の持って行き方を間違えた。

さらっと職持ちでした、あははははーは通じない。 

亘理室長は私たちに対して誠実に対応してくれている。 
面談だってわざわざ時間を作ってくれたんだ、そんな人がわざわざ相談に来た人に対し軽く流すような失礼な対応をするわけないじゃないか。
失敗した……。


「……あ、いえ庇護とかは求めていません。 ただ成人を迎えたら探索者になりたいって話を知ってほしくてですね……」

「そうか? それなら別に言わなくてもスカウト班に断りを入れてもらえれば……妹さんは鑑定されるとまずいってことか」

ふむ、と顎に手を当てて考えるそぶりを見せるとこちらの図星を付いてくる。

まずい……
肯定か否定か? どっちを選択すればいい。

「……そんなことはないですよ」

にこりと笑って取り敢えず否定を選択した。
すると亘理室長もにこりと人の良さそうな笑みを浮かべ、

「ではスカウト班に行ってもらうことにしようか」

そう告げられた。

「……っ」

「どうする? ここで正直に話すか、それともスカウト班に身ぐるみはがしてもらうか、どっちがいいかな」

笑顔のままでさらに言葉が続いた。

「……妹のレベルです」

「レベル?」

「……妹のレベルが私の2倍以上あります」

「ふむ? 失礼だが橘君のレベルは今いくつかな?」

「私は今29です」

「29の2倍か…………ん?」

追及に観念して白状した振りをすることにした。
これ以上心情を悟られない様に、神妙に見える表情を作って室長を見つめる。

「正しくは60代です。 正直に言ってここに居る探索者のレベルをはるかに凌駕してます。 妹は……妹はまだ高校生で……成人までまだ数年あります。 姉としては成人するまで普通の学校生活を送ってほしいんです」

心配しているのは本心だ。
優奈はまだ高校生。
なのに錬金術とか言うとんでもない職業を割り当てられてしまった。
いいように使われないよう姉として守らないといけない。

「なるほど……確かにレベルが60もあったら攻略も捗る……下手したらクリアできるかもしれんな。 上に知られたら学校よりもダンジョンに投入しかねないな……」

そんなことを考えていたら亘理室長も納得してくれたようだ。
行けるか? 職業隠し通せるか?


「ですよね、だから前もって成人したら探索者になる意志を伝えたかったんです」

……手応えはありそう。
表情が不自然にならないように気をつけて話した。

「……橘君の懸念も理解した。 この件は私の方で預かるよ」

……いけたー!!
内心ガッツポーズを決めて喜ぶ。
表情はあくまでも妹を心配する姉だ。

「ありがとうございます。 亘理室長に理解して頂き感謝します。 時間も時間ですので私はこれで失礼します」

「あぁ、報告ありがとう」

そう言うと立ち上がり、そそくさと部屋を後にした。

なんとか乗り切ったと心軽やかに家路に着いた。



一方遥が立ち去った室長室では……


「橘君もまだまだ若いなぁ」

「室長は人が悪いですね」

橘君が立ち去った後、三波君にコーヒーを入れてもらい一服する。

部屋には私と三波君だけだ。

「人聞きの悪い。 橘君が隠したいなにかを私が預かるだけだよ? 探索者が心置きなくダンジョンに集中できるようにするのが私の仕事だからな」

「本心は?」

「そんなに短期間で高ランクになる秘密……私は知っておかなきゃいけないだろ?」

「スカウト班への連絡は?」

「私の方でする……と言いたいところだが……スカウト班を通すと上に伝わってしまうよな、さてどうするか」

「一応隠す気はあるんですね」

「約束はしたからな」

「矛盾してません?」

「解釈の違いだ。 まだ高校生と言っていたからな、学校生活を送らせたいという気持ちも分かる、だが私の立場で把握しないのは問題だ。 情報を知って伏せておくのと、情報を知らずにほったらかしにするのはまた別だ」

「どうするんですか?」

「……そこなんだよな。 今は鑑定使える者はスカウト班の子だけだし……しょうがない私が直接本人に聞きに行くよ」

「……通報されないでくださいね」

「失敬だな」

後日優奈の前に亘理室長が現れるのだった。



公安警察外事課

『αは満喫しているようか』

「そうみたいですね、色々と観光に赴いているようです」

『目的の場所は観光できたのかな?』

「随分と楽しそうですよ。 友達と一緒に騒いでます」

『ならそろそろ旅も終えても良さそうだな。 観光客は自国へお帰り願おうか』

「そうですね、ご帰国願いますね」

優奈の家の付近の公衆電話でメリルを監視していた男性がそう呟いた。

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