高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

第二章 変わりゆく日常

37話目 公表

姉が訓練に参加するようになって一カ月、８月の半ばに差し掛かっていた。

「お姉ちゃん見てみて」

「なに？　今日も訓練で疲れてるんだけど」

「ならいいや」

「逆に気になるじゃん」

今は夜、今日は訓練があり、疲れ果てた姉は私の部屋で屍のようになっている。
私の声かけに顔だけ上げて視線をこちらに寄越した。
あくまでも起き上がる気はないらしい。


私が姉に話したかった内容はこれだ。
まず、今現時点で各国のダンジョンの攻略は公表されていない。
トップ同士の繋がりで共有されてるかもしれないがニュースにはなっていない。

だがこの日は違った。

私がベッドから降りて、姉の前にスマホを置く。
内容を確認した姉は目を見開き、スマホを奪い身体を起こした。

「アメリカがダンジョンクリアを公表！？」

「そうそう！！　ダンジョンってクリアできるんだね！！　コアとか破壊したのかな？」

「ちょっと待って、優奈黙ってね」

「お口チャック」

ウキウキと姉に話しかけた私は逆に沈黙を強要された。
仕方がないので指でチャックを閉める動作をし黙ることにした。

「えっと……並びに獲得したアイテムを公表……ヤバいじゃん……」

スマホの画面を食い入るように見つめる姉。

そこに書かれていた内容はこうだ。

アメリカがダンジョン一つをクリアしたと言う事。
そのダンジョンは地下３０階まであったと言う事。
内部にはモンスターがはびこっていたと言う事。
モンスターを撃破、最奥に居たボスモンスターらしきものも撃破したという言う事。
そこで宝石を手に入れたという事。

と言うような前向きな内容が書かれていた。


そこにはクリアに至るまでの怪我人の人数や、死傷者の数と言った後ろ向きの内容は書かれていない。
どうやってクリアしたのか、期間はどれくらいかかったのか、武器は何を使用したのか、モンスターの種類、罠の数、毒の種類という物は一切記載されていない。



そしてとどめに入手したアイテムの発表も併せて行った。

入手したアイテムは全て鑑定済みとされており、モンスターからは素材や下級回復薬や魔石、ボス戦で中級回復薬と宝石。
宝箱からは下級解毒薬や下級魔力回復薬、魔道具や魔法武器、魔法防具、そして魔法書が出たと書かれていた。

魔法書という言葉に期待感が高まる。

「魔法書が出たの？！　魔法使いになれちゃう？　凄い凄い！！」

「凄いじゃないよ！！　ヤバいよこれ！！」

手放しで喜んだ私とは違い、姉は神妙な面持ちでそう言った。

「え？　何が？」

「宝物に目が眩んだやつらがダンジョンに突入するでしょこんなの見たら！！　何考えてんの？！」

「……あ……もしかして怪我人出ちゃう？　でもそんなに怪我しなくない？　だって最初スライムしか出ないんでしょ？」

「優奈まで！！　私言ったでしょダンジョンの内容。　３階でさえ訓練摘んだ自衛隊の人が骨を折るところなんだよ。　普通の人じゃ怪我人だけで済むか……下手したら死傷者も出るよ。　……というかダンジョンに入る前に暴動が起きるかもしれないよこれ。　殺到してんじゃないの？！」

「でも……でもでもでも、アメリカの人たちがクリアできたのなら自衛隊とか鍛えた人ならいけるんじゃない？　怪我した人だって油断したんでしょ？」

微かな可能性を口にするが姉に一蹴されてしまう。

「ここに軍人のみって書かれてないよね。　どっちともとれるけど、私は職持ちで突入したと思う」

「確かに……」

「訓練で実際にダンジョンの中の映像見せられたから分かるけど、素人がむやみに入ったら死ぬよ？　マジで」

訓練してきた姉が楽観的な私にそう告げる。
。
ダンジョンに対して軽視していた私は戸惑い、思わず喉が鳴ってしまった。

「テレビテレビ、ちょっとニュース確認しなきゃ」

そう言って姉は慌ただしく下の階に降りて行った。





ぽつんと残された私はおもむろにスマホを弄った。

「凄い盛り上がり……」

ネットは魔法書の登場に大盛り上がりだった。
既に姉の懸念したとおりにダンジョン前での非公式デモまで勃発している様子だ。
すでに警官と市民の間で衝突も見られる。
スライムなんか怖くねぇ！！　と叫んでる人たちまでいた。

「魔法書……やっぱり気になるよねぇ」

スライムという最弱の魔物のスタンピードが、ダンジョンに対する国民の危機感を低下させていた。