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第三章
274話目
しおりを挟む皆が返っていった家で一人で陛下に言われたことを考えていた。
領主……。
誰が?
私が?
領主?!
待って待って待ってどういう事?!
一人頭を抱えて右往左往する。
ポンッ。
頭がこんがらがる。
駄目だ。
温泉行こう。
カタログギフトを使用して静かにぼーっと考えられる場所へと移動した。
旅館につくとチェックインを済ませ部屋に案内してもらいそのまま服を脱ぎ客室露天風呂へと直行した。
身体を洗い湯船につかる。
「あーーーー」
温泉はいつ入っても沁みるなー。
そんな事を考えながら新緑溢れる山を眺めながらぼーっと過ごす。
えっと……なんだっけ?
陛下に領主になれって言われたんだっけ。
なんでだ。
動きってなんだよ。
……でも陛下は私達渡り人のことを考えてそう言ってくれたのかな。
今後のことを見据えてって言ってたもんね。 確かに渡り人って寿命無さそうだし……。
私が回復し続けたら永遠に居続けられるって事だもんね。 今の陛下は友好的だけど今後即位される人達が友好的とは限らない。 アルフォート様だってオリヴィア様だって私達より先に亡くなるんだ……。
今がどんなに守られているかを理解し気持ちが落ち込む。
あの人達が居なくなった後やっていけるのかな。
そもそもその考えがダメなのかな。
肩まで使っていたがさらに口元まで湯船に浸ける。
渡り人を守らなきゃいけない。
こちらの味方が多いうちに地盤を盤石なものに整えて行かなければいけない。
それに早いはないんだよね。
だから陛下もこちらの意見を聞かずに動くって言ってたんだと思う。
それに陛下達の時間の方が有限だ。
領主か……。
やりたいかやりたくないかと聞かれればやりたくない方が勝る。
こんな私にアルフォート様のような役割が務まるとは思えない。
貴族社会なんて分からないことだらけだ。
でも分からないのは他の渡り人達も同じ。
むしろ誰かが防波堤にならなきゃいけない。
武力だけなら相良さんに習えばいくらでも習得できる。
ただこちらの人とのかかわり方は今を逃したらきっと難しくなる。
というか信頼できる人を見分けられるか自信が無い。
あーでも領主って自信ないなぁ。
陛下は他の人にもアタリを付けているって言ってたけどどうなの?
私が災いの種をばら撒くだけばら撒いて後は放置?
自分で蒔いた種は自分で刈り取らなきゃ……
んーでも自信ないな!!!!
……ちょっと今度春子さんに相談……
春子さん……は止めておこうかな。
オーフェンさんが居なくなってからの話の相談ってえぐいよね。
最初に温泉行ったとき泣いてたし。
じゃあ誰に……灯里……灯里に相談だ。
こんなん私一人じゃ決心つかないよー!!!!
そんな感じで色々考えながら湯船につかっていたらのぼせてしまった。
旅館での残りの時間は部屋で体力回復に努める羽目になった。
折角の美味しい料理もお土産屋さんも楽しめなかったよー。
++++
「お嬢様、噂話は順調に広まりを見せているようです。 ただ私どもが流した噂に尾ひれがついたようですが……」
「構いません、ただし尾ひれの出所の把握だけはしていてください」
景観の良い窓辺に腰を下ろし景色を何の感情もない瞳で眺める。
「はい、ミラーリア侯爵家に媚びを売るいくつかの子爵家と王都の商業ギルドが発生のようです」
「分かりました、引き続きよろしくお願いします」
「かしこまりました」
ブリストウ領から出た後近くの領の豪華な宿泊場の最上級の部屋にてそう報告を受ける。
「おじいさま……見ててください」
ミラーリア侯爵令嬢は真剣な表情で祖父から貰ったネックレスを胸に抱きそう呟いた。
「渡り人は……許さない」
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