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第三章
273話目
しおりを挟むそしてアルフォート様が選んだものは枝豆とフライドポテトと刺身の盛り合わせ焼き鳥の盛り合わせ、そしてカツオの酒盗だ。
乾杯をしている間に頼まれたおつまみをお取り寄せしテーブルの上に置いていった。
「……」
アルフォート様以外は酒盗を見て私を見てもう一度酒盗に視線を移した。
……見た目グロテスクだもんね。
分かるよ、気持ち……分かるよ。
「……これは食べ物か?」
「陛下。 食べればわかります」
ずずいと酒盗の入った小皿を陛下の前に突き出すアルフォート様。
「……これは本当に食べ物か?」
「日本酒に合いますよ」
胡散臭そうに酒盗を見る。
ご婦人方は目を背けている。
アルフォート様が取り皿に酒盗を少しのせスプーンで自身の口に運んだ。
陛下は信じられないとばかりに目を見張っている。
アルフォート様はそのままウィスキーをグイッと煽った。
「……悪くないがやはり酒盗は日本酒の方が合うな。 桜すまないが私にも日本酒の辛口を頼む」
「かしこまりました」
そして日本酒を取り寄せるとアルフォート様はお猪口に日本酒を注ぎもう一度酒盗を口に運ぶと日本酒で流し込んだ。
「……旨い」
これこれと言わんばかりに美味しそうに味わう。
陛下は最初それを胡散臭そうに見ていたが、アルフォート様が日本酒と共に美味しそうに食べているのを見て興味を惹かれたようだ。
取り皿にとりわけ少量、ほんの少量スプーンで掬い取った。
何度かためらい口に運んだ。
「……ん? 意外と……なんだこれは……この触感……なんだ?」
首を傾げながら味わっている。
「陛下、日本酒をお忘れですよ」
「ん? あぁ、そうだったな」
そう言ってもう一度酒盗を掬い取り口に運ぶと今度は日本酒で流した。
「ん! っこれは良いな、あぁ……確かに旨い」
「えぇ、この酒盗の塩辛さが口の中に広がった時にこの辛口の日本酒のスッキリした味で流し込む。 この瞬間が堪らない」
「んん、分かる。 これは癖になるな」
陛下のお口にもあったようだ。
でも酒盗はお酒に合いすぎるからお酒がすすんじゃうんだよね。 いつの間にかお酒が無くなる。
だから酒盗って名前なんだけど。
「……では私達も頂きましょうか」
「えぇ」
陛下とアルフォート様の盛り上がりを微笑ましく見ていた王妃様とオリヴィア様。
お二人にはこっそりとデザートチーズをお出しした。
日本酒には合わないけど甘いワインには合うよね。
「あら……飲みやすいわ」
「はい、お口に合いましたか?」
「えぇ」
そして4人で酒盛りが始まった。
……私に用があってここに来たんじゃなかったの?
もしかして私居酒屋扱いされてる?
表面上にこやかに接していたが、この状況どうすればいいのと内心困惑していた。
しばらくしてお酒がすすみ、美味しいお酒と美味しいおつまみで上機嫌な酔っ払いが4人ほど誕生した。
その頃には多少雑に扱われても陛下もアルフォート様も気にされなくなっていた。
私の気分は飲み屋の女将さんだ、自分が料理作ったわけではないんだけど。
そんな中爆弾発言が陛下から投下された。
「桜、領主にならないか」
顔を赤らめてへらへらとした表情でそう陛下が告げた。
「はいはい、飲み過ぎですよ……え?」
「いや……な? 渡り人の魔力が回復されるようになったろ? 元々我々とは寿命が異なるんだ。 私達が居るうちはいいが、死んだあと渡り人の扱いがどうなるか分からん。 一応教えてはいるがな、教えはいつか曲がってしまうだろう。 だから私が生きているうちに渡り人の居場所を作っておかないとと思っているんだ。 魔力の回復は桜ありきだ。 だから手っ取り早いのが桜が領主になってくれることなんだが……どうだ?」
先ほどまでのへらへらとした表情はなりを潜め眼光が鋭くなっている。
他の三人も楽しく飲んでいたはずが真剣な表情でこちらを見つめている。
私は鳥肌が立った。
「じょ……冗談でしょう……か?」
「いや、冗談ではない」
居住まいを正してお酒の入ったコップをテーブルに置くと腕を組みこちらに話しかけてくる陛下。
「今はまだ時期ではないが近い将来そう言う動きになる。 いやそう言う動きをする」
動きをするって……どういう動きなの……?
陛下のその発言に言い知れぬ不安が押し寄せてくる。
「別に桜が嫌なら別の渡り人に白羽の矢が立つだけだ。 その際桜には補助として何かしらの手伝いは頼むがな」
別の人が生る可能性もあるのか。
代案を提示され少しだけ気が緩む。
「今のうちからそうなる可能性は覚悟しておいてくれ」
そう言って陛下達は帰っていった。
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