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第三章
271話目
しおりを挟む王宮
私室にて通信の魔道具を用いて話を聞く。
「して令嬢の動きはどうだ?」
「はい、現状ブリストウ伯爵と面談後各領地を周っております」
「ふむ……おおよそ想定通りか」
「はい」
「引き続き監視を頼むぞミラーリア侯爵」
「……かしこまりました。 陛下」
「下がってよい」
複雑な心境を胸に宿しながらも、顔色を悪くする程度で済ませているミラーリア侯爵が礼をし魔道具を切った。
「後はどれだけの者が釣れるか……だな」
一人私室で報告を聞いた。
まだまだこの国には渡り人を平民と侮っている者達が多い。
父の代でかなりの数摘発したがまだ残っている。
しかも厄介なことに逃げることに敏感な奴らばかりだ。
自身に危険が迫れば身代わりの者を用意しておくような周到さ。
そんな奴らに侯爵家は丁度良かった。
ミラーリア侯爵家という御旗を掲げ陰に隠れ甘い汁を啜ろうとする者を一網打尽にする。
そいつらを油断させるのに令嬢の純粋さは良い餌だ。
簡単にだませると思っているだろうよ。
そして良い隠れ蓑だとも。
さぞ大量の魚を釣らせてくれるだろうな。
さて、私も私で交渉に行くか。
グラスに残っていたお酒をグイッと飲み干す。
やはり異世界の酒の方が旨いな……。
口は正直だ。
私室から出ると護衛がさっと取り囲む。
寝室へと向かうと私の戻りを待ち構えていた王妃に出迎えられた。
「待たせたな」
「全くでございます。 では参りましょう」
王妃の陽だまりのような笑顔を見て良心の呵責に苛まれる。
王女と年端も変わらぬ幼気な令嬢を囮として使用している事実に。
これも必要なことと頭を振るう。
飲みなおすべく王妃と共に転移門をくぐった。
廃村
夕刻
「ぇえ?! 陛下がいらっしゃるんで……」
長谷川さんが転移門を使用しこちらに来たかと思えば、また陛下と王妃がこちらに来ると伝えられた。
こちらはそろそろ旅館に行こうとしているタイミングで、こちらの事情を知らないユーリアスさんが帰り支度をしていた。
「そろそろ私もこちらで一晩中語り合いたいものだ」
日本に行けることを知らないユーリアスさんはそう言って期待に満ちた目でマッヘンさん達を見ていた。
だがこればっかりは私達ではどうしようもない。
マッヘンさん達はさっさと旅館に行きたいがためにユーリアスさんの訴えをガン無視し問答無用で片づけに入っていた。
そんな最中に長谷川さんが来たのだ。
「ん? 陛下と王妃様がここに? ん?」
理由を知らないユーリアスさんは頭に疑問符を掲げている。
これは教えても良いのか駄目なのか……いや、駄目に決まってるな。
ユーリアスさんはアルフォート様預かりの身だ。
私が勝手に事情を話すわけにはいかんなと愛想笑いでごまかした。
そうこうしている間にお二人とアルフォート様、オリヴィア様が転移門を使用しやって来た。
私達は頭を下げて出迎える。
ユーリアスさんも何が何だか分からないと言った様子だったが、その様子を見せずにきちんと対応していた。
「これは非公式だ。 よいよい」
顔を上げればユーリアスさんの顔を見て陛下が驚いている。
「これは……フォルラーニ侯爵家の令息ではないか。 何故ここに?」
「は、ここにて日中魔道具作りの勉強をさせて頂いております」
「そうか……アルフォート」
「はい、後程報告申し上げます」
「頼む」
そして陛下とアルフォート様が目配せをしアルフォート様が頷くと
「長谷川、ユーリアス殿を頼む」
「かしこまりました」
長谷川さんがユーリアスさんを誘導し転移門へと誘った。
「では私は失礼致します」
ユーリアスさんが陛下夫妻へ挨拶をすると長谷川さんと共に転移門に消えていった。
そしてアルフォート様が続けて言葉を発した。
「倉敷、マッヘン、菅井、相良席を外してくれ」
その言葉に、「よし、さっさと逃げるか」といそいそと行動を開始する人達。
私だけ残された。
まって皆逃げないで、いや、むしろ私も連れて行って!!
私の心の声は聞こえず取り残された。
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