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第三章
267話目
しおりを挟む旅館から帰って来ると春子さんは転移門を使用しオーフェンさんのもとへ帰っていった。
灯里は今日もお休みを取っていたというので一緒に倉敷さんのもとに行ってくれた。
「たのもうー」
「なんじゃ? 桜か」
魔道具作りの作業をしていたマッヘンさんがこちらを振り返り手を止めた。
「なんか用か?」
倉敷さんも声を掛けてきた。
「ユーリアスさんはいる?」
「ユーリアスか。 あ奴は相良と一緒に冒険者ギルドに行っとるぞ。 今日も解体を学びに行っとるまぁ……帰りは夕方かのう」
「……本当に学びに行ってるんだ」
マッヘンさんの答えを聞いた灯里が驚いている。
基本的に貴族は自分の手を汚すことを嫌う。
だからこういった解体などは冒険者ギルドに丸投げで納品する品物でさえ少しの血がついていたらクレームが来るらしい。
「そうなんだ」
「なんじゃ? あ奴に用か? 帰ってきたら伝えとくか?」
「んー直接聞きたいことがあったからさ……」
「なら冒険者ギルドに行った方がええぞ」
「そうだね……」
せっかく自分がやりたいことを見つけて学んでいるのに、こちらがちょっと聞きたいことがあるから帰って来てとか……邪魔するのははばかれる、かといって冒険者ギルドで尋ねるのもまずい気がする。
日にちを改めようか? そう思いマッヘンさんへの返答があいまいになってしまった。
「なんじゃ歯切れが悪いのう」
私の態度を見かねたマッヘンさんが道具を置きこちらに向かってきた。
マッヘンさんがこちらに来たのを見届けて倉敷さんは作業の手を進めた。
「ほれ、そこに腰かけてええぞ」
ソファーから荷物をどかして座れるようにしてくれたマッヘンさん。
マッヘンさん自身は武骨な椅子をそこら辺から持ってきて腰を下ろした。
「ユーリアスを待つならここで待ってても良いが……何か気になるなら聞くぞ」
「ありがとうございます」
「今、鋼もあ奴らについて冒険者ギルドに行っとるからお茶はだせんがの」
そう言ってマッヘンさんは笑った。
最近鋼さんも魔法の練習したり魔獣の解体を見に行ったり相良さんについて行って魔獣の討伐の訓練したりと活動的らしい。
王都に居た頃は炊事洗濯雑用ばかりやっていてやりたいことが無さそうだったからマッヘンさん的には嬉しい事なんだとか。
「あ、なら私が出します。 ペットボトルでもいいですか?」
「おお、ありがとうよ」
そう言って私はアイテムボックスから飲み物を取り出し手渡した。
「んで、何を聞きに来たんじゃ?」
「いやー……ユーリアスさんも一応貴族だったじゃない? 最近ブリストウ領の回りをウロウロしているミラーリア侯爵家について何か知ってるかなと思って……」
「ミラーリア侯爵家? ……なるほどのう、確かにあ奴は知ってるかもしれんな」
「というと?」
「令嬢と歳も近いからの、舞踏会でも嫌でも噂は聞こえるだろうという話じゃよ」
舞踏会!!
ユーリアスさんもやっぱり貴族なんだね。
「そんでミラーリア侯爵家について何が聞きたいんじゃ?」
「えっと……最近ブリストウ領に絡んで来てるみたいなのでなんでなのかなーって気になったんです」
「冒険者ギルドでも噂になってるんですよ」
灯里も控えめながらさりげなく声を発する。
「例の渡り人嫌いか」
「そうです」
「……まぁ……確かに儂も良く知らんなぁ。 噂話でミラーリア侯爵家が渡り人を嫌っているという眉唾な話を聞くくらいじゃ」
「噂話なんですか?」
「実際渡り人に対して何か害したという話は聞かんからのぅ」
「そうなんですね」
「そうじゃの、そう言う話はユーリアスに聞いた方がええの。 戻ってきたら話をしておくから都合の良い日を指定しておくれ」
「「はい」」
そう言って私はいつでもいいので灯里の都合のいい日を教えてもらい、灯里と入れ違いで帰って来たユーリアスさんと都合を合わせ5日後に再び高梨さんの工房で話を聞かせてもらえることになった。
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