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第三章

266話目

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春子さんに話を切り出され私と灯里は顔を見合わせて頷き灯里が聞いた話を伝えた。


灯里が説明すると美青年に対して今度は私が補足を加える。
ユーリアスさんがこちらに来てから二人とも廃村には来ていなかったからだ。
今後も廃村に来るだろうから説明していないと面食らってしまうだろう。

高梨さんが攫われた経緯からユーリアスさんがこちらで住まう理由も伝えておいた。


「……大体の話は分かったわ。 というかその噂話に関してオーフェンからアルフォート様に話はしているわ」

「そうなんですか?!」

「えぇ。 というのも商人たちの間でも噂が広がっていてね、噂どころかブリストウ領との取引に置いて値上げすると言い出している商会もあるの」

「思った以上に大事になってる?!」

「まぁ……そう言うところは元々ブリストウ領に対して嫉妬があったのでしょうね。 以前桜さんにも伝えた通り、渡り人がもたらす品物は高価だから」

「噂に対しての信憑性より便乗した人達が多かったんですね」

「灯里さんの言う通りよ」

ここまで話をして春子さんは茶碗に注がれたお茶で喉を潤した。

「ブリストウ領はお金を生みだす金を産む鶏が赤子同然でやってくるの。 桜さんも最初ばら撒いたでしょ? 灯里さんも覚え有るでしょう?」

私はそれを何度も自覚したけど灯里もそんな時があったのか。

「……はい、その結果がストーカーを生み出しました」

アレか。

「今回桜さんは特別扱いもとい隔離されてるけどね。 元々は必要以上に手出しをしないよう商人にも言い含められているの。 だから悪意をもって渡り人を利用しようとする人たちはブリストウ領から排除されるわ」

「今まではこんな事無かったんですか?」

「値上げの事? 度々あったわ、もちろん常識の範囲内だけどね、度を越したらその商会が所属する領主が社交界で酷い目に合うから商人たちも気を付けてはいたわ」


「今回はなんで?」


「ここからは推測だけれどもこの間ミラーリア家のお抱えの商会と令嬢が来たでしょう」

「あ、アルフォート様がそんな事言ってました」

「噂話が聞こえ始めたのがその後なのよ」

「ミラーリア侯爵家とブリストウ辺境伯が敵対したと勘ぐる者も出て来てミラーリア侯爵家と親しくしたい家の者達が各々の商会に圧を掛けているみたい」

「ミラーリア侯爵家ってブリストウ領から近いんですか?」

「近くは無いわミラーリア領はドルイット領の隣だからね。 ブリストウ領からは王都を挟んで反対側に位置しているわよ」

「遠っ!!」

王都まで馬車で1週間以上かかる。 となるとミラーリア領はもっとかかるよね。

「ミラーリア侯爵とアルフォート様の間に何かトラブルはあったんですか?」

「分からないわ。 少なくともオーフェンが商業ギルド長についてから表立った対立は聞いたことないの」

「……あの自販機が問題とか……?」

「分からないわ、そもそもミラーリア侯爵家は渡り人嫌いと噂があるくらいだし。 令嬢が自販機に目を付けた理由もよく分からないのよ」

「そうなんですか?」

「そもそも貴族の話なんて私達には分かる方が少ないわ。 アルフォート様でさえちゃんとした関わりを持ったのは桜さんが来てからなんですから」

ここに住む人達との壁。

私達が住んでいた場所とは違う世界。
世界史や日本史は私は苦手だった。

自分達が暮らしていたところの歴史でさえそうなのに突然来た世界の事なんてわかる訳ないよね。

貴族間の関わりやその家門の歴史。
表立っても分からないのに人間関係や複雑な機微なんか当然分からない。

「……アルフォート様には噂話は伝わってるんですよね」

「伝わっているわ」

「私たちに出来る事は無さそうですね」

「そんなに気を落とさないの。 私たちは元々よそ者なんですから、このくらいで気に病んでたらこれから大変よ。 せっかく旅館に来たんですから話はこれくらいにして飲みましょう!! 久しぶりに日本酒楽しみたいわ」

私と灯里はそんな春子さんの気遣いのもと久しぶりの女子会を満喫した。

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