266 / 274
第三章
266話目
しおりを挟む春子さんに話を切り出され私と灯里は顔を見合わせて頷き灯里が聞いた話を伝えた。
灯里が説明すると美青年に対して今度は私が補足を加える。
ユーリアスさんがこちらに来てから二人とも廃村には来ていなかったからだ。
今後も廃村に来るだろうから説明していないと面食らってしまうだろう。
高梨さんが攫われた経緯からユーリアスさんがこちらで住まう理由も伝えておいた。
「……大体の話は分かったわ。 というかその噂話に関してオーフェンからアルフォート様に話はしているわ」
「そうなんですか?!」
「えぇ。 というのも商人たちの間でも噂が広がっていてね、噂どころかブリストウ領との取引に置いて値上げすると言い出している商会もあるの」
「思った以上に大事になってる?!」
「まぁ……そう言うところは元々ブリストウ領に対して嫉妬があったのでしょうね。 以前桜さんにも伝えた通り、渡り人がもたらす品物は高価だから」
「噂に対しての信憑性より便乗した人達が多かったんですね」
「灯里さんの言う通りよ」
ここまで話をして春子さんは茶碗に注がれたお茶で喉を潤した。
「ブリストウ領はお金を生みだす金を産む鶏が赤子同然でやってくるの。 桜さんも最初ばら撒いたでしょ? 灯里さんも覚え有るでしょう?」
私はそれを何度も自覚したけど灯里もそんな時があったのか。
「……はい、その結果がストーカーを生み出しました」
アレか。
「今回桜さんは特別扱いもとい隔離されてるけどね。 元々は必要以上に手出しをしないよう商人にも言い含められているの。 だから悪意をもって渡り人を利用しようとする人たちはブリストウ領から排除されるわ」
「今まではこんな事無かったんですか?」
「値上げの事? 度々あったわ、もちろん常識の範囲内だけどね、度を越したらその商会が所属する領主が社交界で酷い目に合うから商人たちも気を付けてはいたわ」
「今回はなんで?」
「ここからは推測だけれどもこの間ミラーリア家のお抱えの商会と令嬢が来たでしょう」
「あ、アルフォート様がそんな事言ってました」
「噂話が聞こえ始めたのがその後なのよ」
「ミラーリア侯爵家とブリストウ辺境伯が敵対したと勘ぐる者も出て来てミラーリア侯爵家と親しくしたい家の者達が各々の商会に圧を掛けているみたい」
「ミラーリア侯爵家ってブリストウ領から近いんですか?」
「近くは無いわミラーリア領はドルイット領の隣だからね。 ブリストウ領からは王都を挟んで反対側に位置しているわよ」
「遠っ!!」
王都まで馬車で1週間以上かかる。 となるとミラーリア領はもっとかかるよね。
「ミラーリア侯爵とアルフォート様の間に何かトラブルはあったんですか?」
「分からないわ。 少なくともオーフェンが商業ギルド長についてから表立った対立は聞いたことないの」
「……あの自販機が問題とか……?」
「分からないわ、そもそもミラーリア侯爵家は渡り人嫌いと噂があるくらいだし。 令嬢が自販機に目を付けた理由もよく分からないのよ」
「そうなんですか?」
「そもそも貴族の話なんて私達には分かる方が少ないわ。 アルフォート様でさえちゃんとした関わりを持ったのは桜さんが来てからなんですから」
ここに住む人達との壁。
私達が住んでいた場所とは違う世界。
世界史や日本史は私は苦手だった。
自分達が暮らしていたところの歴史でさえそうなのに突然来た世界の事なんてわかる訳ないよね。
貴族間の関わりやその家門の歴史。
表立っても分からないのに人間関係や複雑な機微なんか当然分からない。
「……アルフォート様には噂話は伝わってるんですよね」
「伝わっているわ」
「私たちに出来る事は無さそうですね」
「そんなに気を落とさないの。 私たちは元々よそ者なんですから、このくらいで気に病んでたらこれから大変よ。 せっかく旅館に来たんですから話はこれくらいにして飲みましょう!! 久しぶりに日本酒楽しみたいわ」
私と灯里はそんな春子さんの気遣いのもと久しぶりの女子会を満喫した。
33
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。
おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる