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第三章

261話目

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小気味良い返事があったがすでにメモ紙に集中していた俺はそれを無視することにした。

それから数日はユーリアスの部屋に近い部屋を宛がわれユーリアス自慢の魔道具の研究をしていた。

解析に関してはマッヘン爺さんが得意だが、俺も見えない事は無い。
少しづつ解析した回路を紙に書き映しメモ紙に合った鑑定結果と照らし合わせたりしていた。

ユーリアスの家は随分と裕福らしく素材も豊富にあった。
加えて俺がアイテムボックスに収納していた素材もある。

回路用の専用の液体も補充したばかり。

喜々として改良に取り組んでいたらその様子を伺っていたユーリアスが尋ねてきた。

「それが回路用の専用の液か。 菅井は随分と簡単に解析するんだな、魔道具の解析は難しいと聞いたが……」

「あぁ……まぁ……コツを掴めば誰でもできるぞ」

「そうなのか?! 私にも出来るか? 私も魔道具を作ってみたいのだが」

「魔道具作りか、ならまずこれを練習しろ」

生返事を止めてユーリアスに向き合った。
いつもなら適当にあしらうところだがここまでこうも面白い魔道具ばかり見せてもらったんだ。
少しくらいは恩返しをしておこう、というそう言う殊勝な気持ちは無い。

単純にこんなに魔道具を集められるんなら教えておいた方が後々何かしら特になるんじゃないかという打算だ。

新しい回路を発見したり、金の力で素材を漁り新しい回路用の専用液の開発をしたり、効率よく回路を動かせる素材を研究するかもしれない。

俺が自分でやらなくても情報だけ得られるようにしておくのも悪くないという考えからだ。

しかも手渡した練習道具は俺がマッヘン爺さんから教えてもらった初心者向けの回路の描き方の練習道具だ。

俺の負担は1ミリもない。
後は勝手に練習してくれ。
そして俺の邪魔をするな。

そんな思いから手渡した。

「これは……?」

「俺が師匠から貰った練習道具だ」

「!! 良いのかい?! そんな大事なものを!!」

俺があながち間違いではない言葉を吐くとユーリアスは大層感激した様子でそれを抱えた。

「あぁ、俺は十分世話になったからな。 次はユーリアス、お前の番だ」

「ありがとう!! 私も魔道具職人になれるよう頑張るよ!!」

「期待してるぞ」

「私の夢を馬鹿にしなかったのは菅井……君が初めてだ。 感謝するよ」

「何言ってんだ、これからだろ」

魔道具の回路を書き映しながら脊髄反射でペラペラとユーリアスの話に適当に乗ってやる。

俺の目には目の前の魔道具しかない。
だからこのときユーリアスがどんなに嬉しそうな顔をしていたか見ていなかった。

意外なことにユーリアスは真面目に練習に取り組んでいた。
元々貴族だからか教育は良かったらしい。

字も手紙を書くために練習させられていたのか綺麗だし線も美しく引けている。
液も均一でむらもない。
意外と液むらが回路に置いて重要だったりする。
回路に魔力を通して動くのでむらがあると魔力に無駄が出来てしまったり、通らなくなってしまったり、逆に魔力が分散して動作不良を起こしてしまう。

本人も好きでやっているからか俺が魔道具に向かっている時間と同等の時間を練習に充てている、つまり根気がある。

意外と掘り出し物だったのか? とその時思った。

この生活に終わりが来たのは突然だった。

いつものように二人でそれぞれ机に向かっていると部屋の扉が開け放たれた。

「ユーリアス、失礼するよ」

「母上?!」

「客人が来ているなら私にも知らせなさい。 主に無断で……ん?」

扉を開けて入って来た人物に見覚えがあった。
どこで見たんだっけかなと頭を捻っているとその女性と目が合った。

「倉……敷?」

「あ」

思い出した。 この間村に来た侯爵の一人だ。
ここは侯爵の家だったのか、と言う事はこいつは侯爵の息子ってわけか?

そんなことを考えていたら、

「なぜ倉敷がここに? ブリストウ領に居たのでは?」

「倉敷? 母上、彼の名前は菅井です。 紹介が遅れて申し訳ありません。 菅井こちらへ」

ユーリアスが俺に対し席を立つよう促してきた。
あぁ、そう言えば偽名について言うの忘れてたな、とかそんなことを考えた。

「菅井? いや、倉敷だ。 彼はブリストウ領で見たぞ。 アルフォートから倉敷と紹介を受けましたよ」

「いやいや……私は菅井から名前を聞いて……もしかして菅井って偽名かい?」

侯爵の言葉を否定するように自分は俺から直接名前を聞いたと言った。
だが最初の対応を思い出したようで恐る恐ると言った感じで俺に対して確認してきた。

「そうだ」

その言葉を素直に肯定する。

「なぜ倉敷がここに? ……偽名まで……おい、ユーリアスどういうことだ。 説明してもらおうか?」

「母上……?」

侯爵は口元に優雅な笑みを浮かべた。
ユーリアスは口元をひきつらせた。

「ちょっとあちらの部屋で二人で話をすり合わせようか」

侯爵が問答無用でユーリアスの襟首をつかみ部屋を出て行った。

しばらくして侯爵から解放され帰って来たユーリアスの顔は見るも無残な感じになっていた。

次に呼ばれたのは俺で侯爵とサシで話し、最後にユーリアスを交えて話の齟齬を突き詰めていった。

その途中ユーリアスからは「な?! えっ!? 気づいて……なんだと?!」 という言葉が散見された。
侯爵は頭を抱えていた。

それから侯爵からユーリアスに罰を与えると言い出し、廃嫡と言いかけた。
ユーリアスは青い顔をしながらも悔しそうにしていた。
口元からは「そんなに厄介払いしたかったのですか……」 という言葉が小さく零れていた。
侯爵には聞こえていなかったようだが俺の耳には届いていた。

別にユーリアスの今後の行方はどうだってよかった。

ただユーリアスの魔力操作の腕前は侯爵が要らないというなら助手に貰おうかなと思うぐらいの物になっていた。

だから侯爵の廃嫡という言葉を遮り、罰として廃村での助手を提案した。

「……その後はすぐにブリストウ領に連絡して今現在に至るという訳だ」

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