上 下
254 / 274
第三章

254話目

しおりを挟む

魔獣系の素材も色々ある。
廃村周りに出るのは割と高ランクの魔獣だ。

狼系や昆虫系、流石に地竜までは出ないがリザードマンも出現した。

その代わり低ランク、街の周りに出るような奴らは出ない。
そういった素材は魔力の緩衝材や混ぜ込むのに一味加えると案外純正の物ばかりより魔力効率が良くなったりする。

この街の素材屋のばあさんはその加工の腕が良くこの街ではお気に入りだったりする。

裏路地でひっそりと営業しているせいか、はたまた営業向けではないばあさんのせいか人気は無い。
被っていたフードを取るとカウンターで船をこいでいたばあさんが目を覚ました。

「おや……またあんたか」

「勝手に見てるぞ」

「好きにしな」

そう言うとまたうつらうつら船をこぎ出した。
よくそれで店が持つなと思うが俺には関係ない事なので、店内を巡りお目当ての素材を探すことにした。

「……いたいたいた!! こんなところに居たんだねー!!」

静謐な店内に突如響いだ声。

ばあさんはびっくりして椅子から転げ落ちた。
おいおいおい大丈夫かばあさん。

流石に目の前で怪我人が出たら気分が悪い。
目当ての素材を片手にカウンターへと近寄り、ばあさんの手を取り起こすのを手伝った。

「なんだね大声出して。 ここは飲み屋じゃないんだよ」

店に入って大声を出した男に向かってばあさんが文句を言う。

「あぁ、あぁ、それは失礼したねレディー」

「レディー?!」

ばあさんが言われなれない言葉に呆気に取られている。

「僕はそこの君に用事があって来たんだ。 驚かせるつもりは無かったんだよ。 これで治療費は足りるかい?」

つかつかとカウンターに近寄り治療費と称してお金を置いた。

「は?! 金貨?! あいたたたたた、これは折れてるかもしれないね」

「そうなのかい? じゃあこれでは足りないね」

あっさりばあさんの大根演技に騙される男。
身分が高そうな男に吹っ掛けるばあさんの根性にも驚くが、それで騙される男にも驚いた。

「これで治療できそうだよ、ありがとう」

弱弱しいしらじらしい笑みを浮かべてありがたがるばあさん。
演技が上手くなってるじゃねーか。

それに満足したらしい男はこちらに向き直った。

「それで僕は君に用事があったんだよ。 名前を知らないから君としか呼べなくて申し訳ないね、気づかなかったのもしょうがないな。 だから僕に君の名前を教えてくれないか?」

パチンとウインクを寄越す男。
頭の中が理解できなくて俺は思考停止した。

「……菅井だ」

「なんと!! 渡り人かい!! どおりで」

とっさに菅井の名前を偽名で使う。
男は疑うそぶりも見せずにキラキラした笑顔を見せ素直に信じた。

箱入りにしても度が過ぎねーか? と思った。

「では菅井、君魔道具を沢山付けているね。 僕に見せてくれないか?」

「断る」

「ありがとう……ん? この僕に見せてくれないのか?!」

大げさにリアクションを取る男。
ばあさんは椅子に座りなおして、こちらを気にせず再び船をこぎ始めている。
せめてこの男が変えるまで病人の振りしないか?

「この僕だよ?! この僕。 魔道具収集家として名高いこの僕が目をかけたんだよ?!」

……魔道具収集家? こいつ……良いとこのおぼっちゃんか?

「そいつはお眼鏡にかない光栄だな、なら食事でもしながら話を聞かせてもらえないか?」

「それはいいね!! 食事しながらじっくりと聞かせておくれよ」

人を疑うようなことを考えもしないのか演技なのか分からないが、取りあえず2人で食事をすることにした。

とは言ったもののどこがいいか。
この男はここに来たばかりらしく「君のおすすめで!!」 と丸投げされてしまった。

俺だって数えるぐらいしか来ねーわ。

心の中で反論しつつ、どこでもいいか、と適当に繁盛している店に入ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。 おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?

異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~

樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。 無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。 そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。 そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。 色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。 ※この作品はカクヨム様でも掲載しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界で生き残る方法は?

ブラックベリィ
ファンタジー
第11回ファンタジー大賞が9月30日で終わりました。 投票してくれた方々、ありがとうございました。 200人乗りの飛行機で、俺達は異世界に突入してしまった。 ただし、直前にツアー客が団体様でキャンセルしたんで、乗客乗務員合わせて30名弱の終わらない異世界旅行の始まり………。 いや、これが永遠(天寿を全うするまで?)のサバイバルの始まり? ちょっと暑さにやられて、恋愛モノを書くだけの余裕がないので………でも、何か書きたい。 と、いうコトで、ご都合主義満載の無茶苦茶ファンタジーです。 ところどころ迷走すると思いますが、ご容赦下さい。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

処理中です...