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第三章
254話目
しおりを挟む魔獣系の素材も色々ある。
廃村周りに出るのは割と高ランクの魔獣だ。
狼系や昆虫系、流石に地竜までは出ないがリザードマンも出現した。
その代わり低ランク、街の周りに出るような奴らは出ない。
そういった素材は魔力の緩衝材や混ぜ込むのに一味加えると案外純正の物ばかりより魔力効率が良くなったりする。
この街の素材屋のばあさんはその加工の腕が良くこの街ではお気に入りだったりする。
裏路地でひっそりと営業しているせいか、はたまた営業向けではないばあさんのせいか人気は無い。
被っていたフードを取るとカウンターで船をこいでいたばあさんが目を覚ました。
「おや……またあんたか」
「勝手に見てるぞ」
「好きにしな」
そう言うとまたうつらうつら船をこぎ出した。
よくそれで店が持つなと思うが俺には関係ない事なので、店内を巡りお目当ての素材を探すことにした。
「……いたいたいた!! こんなところに居たんだねー!!」
静謐な店内に突如響いだ声。
ばあさんはびっくりして椅子から転げ落ちた。
おいおいおい大丈夫かばあさん。
流石に目の前で怪我人が出たら気分が悪い。
目当ての素材を片手にカウンターへと近寄り、ばあさんの手を取り起こすのを手伝った。
「なんだね大声出して。 ここは飲み屋じゃないんだよ」
店に入って大声を出した男に向かってばあさんが文句を言う。
「あぁ、あぁ、それは失礼したねレディー」
「レディー?!」
ばあさんが言われなれない言葉に呆気に取られている。
「僕はそこの君に用事があって来たんだ。 驚かせるつもりは無かったんだよ。 これで治療費は足りるかい?」
つかつかとカウンターに近寄り治療費と称してお金を置いた。
「は?! 金貨?! あいたたたたた、これは折れてるかもしれないね」
「そうなのかい? じゃあこれでは足りないね」
あっさりばあさんの大根演技に騙される男。
身分が高そうな男に吹っ掛けるばあさんの根性にも驚くが、それで騙される男にも驚いた。
「これで治療できそうだよ、ありがとう」
弱弱しいしらじらしい笑みを浮かべてありがたがるばあさん。
演技が上手くなってるじゃねーか。
それに満足したらしい男はこちらに向き直った。
「それで僕は君に用事があったんだよ。 名前を知らないから君としか呼べなくて申し訳ないね、気づかなかったのもしょうがないな。 だから僕に君の名前を教えてくれないか?」
パチンとウインクを寄越す男。
頭の中が理解できなくて俺は思考停止した。
「……菅井だ」
「なんと!! 渡り人かい!! どおりで」
とっさに菅井の名前を偽名で使う。
男は疑うそぶりも見せずにキラキラした笑顔を見せ素直に信じた。
箱入りにしても度が過ぎねーか? と思った。
「では菅井、君魔道具を沢山付けているね。 僕に見せてくれないか?」
「断る」
「ありがとう……ん? この僕に見せてくれないのか?!」
大げさにリアクションを取る男。
ばあさんは椅子に座りなおして、こちらを気にせず再び船をこぎ始めている。
せめてこの男が変えるまで病人の振りしないか?
「この僕だよ?! この僕。 魔道具収集家として名高いこの僕が目をかけたんだよ?!」
……魔道具収集家? こいつ……良いとこのおぼっちゃんか?
「そいつはお眼鏡にかない光栄だな、なら食事でもしながら話を聞かせてもらえないか?」
「それはいいね!! 食事しながらじっくりと聞かせておくれよ」
人を疑うようなことを考えもしないのか演技なのか分からないが、取りあえず2人で食事をすることにした。
とは言ったもののどこがいいか。
この男はここに来たばかりらしく「君のおすすめで!!」 と丸投げされてしまった。
俺だって数えるぐらいしか来ねーわ。
心の中で反論しつつ、どこでもいいか、と適当に繁盛している店に入ることにした。
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