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第三章
250話目
しおりを挟む「……このことはミラーリア侯爵はご存知でしょうか?」
「お父様? 何故お父様なのかしら? この程度のこと私だけで解決できますわ」
心底不思議そうに聞き返される。
「ご存じないのですね、エレノア様はどうお考えでしょうか? エレノア様もあの魔道具を欲してここまでお越しいただいたのでしょうか」
「私魔道具見たかっただけ」
……ん?
「……失礼ですがエレノア様はドルイット侯爵にお伝えしてここに来られたのですよね?」
「書置きしてきた」
「……内容をお聞きしても?」
「街に行ってきます。 って」
……そりゃドルイット侯爵も慌てるだろう。
隣で聞いているオリヴィアも笑顔のまま絶句している。
書置きしただけで何日も距離のある私の領へ来るなんて疑問に思え。
一歩間違えば私達が拉致したと捉えられてもおかしくないだろうこれは。
これはドルイット侯爵が迎えに来るまでここに居てもらった方が良さそうだ。
恩と一緒に誘拐犯ではないことを証言してもらおう。
失礼を承知で録音できる魔道具を作動させる。
これは倉敷が作ったレシピ産の魔道具を改良した物。
従来の大型の物とは別格で使い心地が良い。
このときばかりは倉敷の魔道具愛に感謝した。
「失礼ですがシャーロット様とエレノア様はお二方で示し合わせてこちらにお越しになったのではないのですか?」
そう2人に聞くと顔を見合わせた。
「私がドルイット侯爵領を抜ける際、街で休息をとった時にお会いしたんです」
「ここに魔道具見に行くって言ったからついてきた」
……2人の教育どうなってんだおい!!!!
護衛達も止めろ!! 侍女たちも何考えてるんだ!!
主が行きたいから、では済まされないぞ!!
私が護衛と侍女に睨みを利かせたが護衛も侍女も澄ました顔をしている。
……なんだ?
不自然な様子に違和感を覚えた。
もちろんシャーロット嬢の提案は断った。
ならば渡り人を紹介してくれと食い下がられたがそれも断った。
更に食い下がられるかと思い身構えるが、あっさりと諦めてくれた。
不審に思ったが、諦めてくれるならそれでいいと話を終えることにした。
話は終わってしまったがまだ保護者が到着したという連絡は入っていない。
時間稼ぎをするために2人の御令嬢を夕食を誘うとにこやかに応じてくれた。
そして夕食が終わると待ち望んでいた保護者が到着した。
「エレノア!!!!」
「お父様?」
ドルイット侯爵はよほど急いで来られたのであろう。
髪は乱れ服も風でよれていた。
挨拶もしないまま娘を見つけたドルイット侯爵はエレノアを抱きしめた。
抱きしめられたエレノア嬢は何故ドルイット侯爵がこんなに取り乱しているのかよく分かってい無さそうだった。
「……無事でよかった」
「無事ですよ?」
侯爵と令嬢の気持ちの温度差が酷い。
エレノア嬢は自分の行動がどれだけ皆を心配させたか理解していないようだ。
「ドルイット侯爵、お目にかかれて光栄ですわ、私ミラーリア侯爵家のシャーロット=ミラーリアでございます」
シャーロット嬢もこの状況が理解できていないのかよく分からないが、カーテシーをし、ドルイット侯爵に対し挨拶をした。
「シャーロット嬢、どういうつもりでしょうか」
声を掛けられゆっくりと立ち上がるドルイット侯爵。
その瞳はいつもの優しさはなく、ひどく冷たいものだ。
「どういうつもりとはどういうことでしょう?」
そんなドルイット侯爵に対しても私に対してと同じような姿勢を貫くシャーロット嬢。
「幼い娘をこんな場所まで連れてくるとはどういう事でしょうとお聞きしているのです」
「私はブリストウ領へ行くと話をしただけでございます。 一緒に行きたいとおっしゃられたのはエレノア様でございます」
臆することなくコロコロとそう述べる。
「……そうなのか? エレノア」
「うん」
エレノア嬢もエレノア嬢でその言葉を肯定する。
ドルイット侯爵は長い溜息を吐き気持ちを静めようとしている。
「それは失礼しました。 侯爵家の御令嬢に幼い娘を保護して頂き感謝します。 ここまでかかった費用やお礼は後程正式にミラーリア侯爵家へ伝えさせていただきます」
「まぁ、費用だなんて……わざわざいいのですよ、私も楽しかったですし」
このドルイット侯爵の発言を聞いてもまだ、お礼を感謝のお礼と受け取れるのはある意味凄いな。
「アルフォートも騒がせて失礼した。 礼はまた今度する」
「分かりました」
「では私と娘は失礼する」
「休憩してはいかがですか? お身体も冷えてしまいます」
「オリヴィア様、お気遣い感謝いたしますが、妻も心配しておりますので早く元気な顔を見せたいので辞退させていただきます、ありがとうございました」
「そうですか」
そう言ってドルイット侯爵はエレノア嬢を自身が抱えるようにしてグリフォンに乗せ自身の領へと帰っていった。
シャーロット嬢も夕食までご相伴に預かりましてありがとうございます。 辺境にしては美味しかったですと最後まで調子を崩さないまま帰っていった。
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