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第三章
246話目
しおりを挟むネーアの街の商業ギルド
ヘルバー商会の使いであるラルフに断りをいれてから数日後
「こちらに異世界の商品が売られている自動販売機なる魔道具があるとお聞きしました」
商業ギルドに現れたのは年頃の娘2人。
どちらも一目で貴族と分かるいで立ちだ。
辺りには護衛の騎士と思しき人物が辺りを警戒していた。
そのうちの一人は色素の薄い髪色を緩く巻き、天真爛漫という表現が似合うその笑顔で、鈴のような声をギルド内に響かせた。
商業ギルドの前にはこの街ではお目にかかれないような豪華絢爛な馬車が停車していた。
「あれはミラーリア侯爵家の家紋じゃないか?」
アルフォートとオーフェンがヘルバー商会について警戒を強める中、たまたま様子を伺いに来ていた長谷川が窓の外をみてそう呟いた。
「ミラーリア侯爵家ですか? ……まさかヘルバー商会に断りを入れたから直々に来られたのでしょうか?」
「いや……それにしては早すぎる。 断りを入れてからまだ数日だろ? ミラーリア侯爵領からブリストウ領までは2週間ほどかかる」
「ではヘルバー商会とミラーリア侯爵家は別で動いている……と?」
「まだ分からん。 だが少なくともミラーリア侯爵家はここに用事があるって事だ」
そう話をしていると副ギルド長がドアをノックし来客の旨を伝えに来た。
「まぁそうなるだろうな」と軽く息を吐き席を立った。
「オーフェン、これを」
「なんですか? ……これは……」
「こんなこともあろうかと領主直通だ。 それを通話状態にしておけ。 アルフォートはこの時間執務室で仕事中だ」
「……助かります」
長谷川から渡されたのは耳に着ける小型の通信の魔道具だった。
侯爵家に対して、単なる商業ギルドのギルド長という肩書はあまりに軽い。
本来であればこちらに赴くのはもってのほか。
こちらが屋敷に呼び出されるのは当然という扱いなのだ。
それが今回に限っては直接足を運ばれた。
アルフォート様からの後ろ盾が無かったら流石に断れなかっただろう。
そう思いながら苦笑し耳に着けた。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
「構いません、こちらこそ突然の訪問申し訳ありませんわ」
扉を開け頭を下げる。
耳に届いた声は年若い女性の物だ。
アルフォート様から言われたミラーリア侯爵令嬢には気を付けろ。 それが脳裏に思い出された。
顔を上げるように言われると声を発したと思われる令嬢へ視線を向けた。
令嬢は応接室のソファーへ優雅に腰を下ろしている。
その横にも声を発した令嬢より幼さが残る可憐な少女が座っていた。
後ろには少女たちの侍女と思わしき女性が、その周りには護衛の騎士がこちらを射殺さんばかりに見つめていた。
ミラーリア家の御令嬢をよくもこんな場所で待たせたな。 という声が今にも聞こえてきそうだ。
「ですが、こうして屋敷へ呼び出されるよりは良いですよね、時間もかかりませんもの」
当の令嬢は周りの様子などさして気にする様子が無い。
コロコロと鈴の音のような音で、まるでそれがこの上なく親切なことのように話を進める。
「私、どうしてもあの魔道具が欲しいの。 いくらで譲っていただけますか? 」
譲ることが確定事項と言うような物言いで告げられた。
「それは……」
「あぁ、自己紹介がまだでしたわね……」
そう言うと令嬢はソファーから立ち上がり、
「私ミラーリア侯爵家の長女、シャーロット=ミラーリアですわ」
私に対して過分と言える大変美しく見事なカーテシーを披露した。
「そしてこの子がお友達のエレノアですわ」
淡い黄色の髪色は髪先まで手入れが行き届いており艶やか、優し気な面差しで小さな口をきゅっと噤んでいる。
ミラーリア侯爵令嬢よりいくつか年下に見える。
その御令嬢は先ほどからミラーリア侯爵令嬢の横に黙って座っていた。
スッと立ち上がるとその年にしては綺麗なカーテシーを披露された。
「私はドルイット侯爵家の次女、エレノア=ドルイットでございます」
お嬢様の口を遮るなんてなんて無礼なというような目をする侍女たち。
このまま私に黙っていろと言うのか。
……ちょっと待て。 ドルイット侯爵家と言ったか?
1人でも過分なのに2人だと……。
早くもこの場から去りたい気持ちになっていた。
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