241 / 274
第三章
241話目
しおりを挟むネーアの街の商業ギルド
魔力回復が公表されて数週間、ネーアの街の商業ギルドは今日も両替を求める商人や円を転売する人達自販機で物を購入しようとする人達、買取を行おうとする人達でにぎわいを見せていた。
最初は混沌としていた自販機回りも1月も経てばある程度暗黙のルールが定まり周知される。
更に桜が雇った冒険者による護衛も警備にあり、賑わいを見せつつも混乱を引き起こすほどではなかった。
そんな中で受付カウンターに見るからに身なりの良さそうな人が現れた。
商業ギルドには身なりに気を付けた商人や大店の主人、商会長等平民の中では身分の高い者もやってくる。
この受付に現れた人物は商人らしからぬ意味で身なりが良かった。
「大変お待たせいたしました。 ご用件を承ります」
最初受付を担当した女性は、その男性と対面するといつも通り人当たりの良い営業スマイルを浮かべ接客を始めた。
「こちらに自販機を設置したという渡り人が居ると聞いてきたのですが……」
男性は見た目20代半ばくらいだろうか。
薄茶色の髪の毛を撫でつけ、人当たりの良い笑顔を浮かべそう要件を述べた。
「渡り人ですか? ……失礼ですがお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
受付の女性は内心「またか」と思った。
というのも自販機が設置されて以降設置した渡り人に合わせろという人が大勢来ていたからだ。
一日に受付する人の3割はそれだ。
時には「お前では話にならん上を出せ」 と言われたり、威嚇をすれば言う事を聞くと思われているのか罵声を浴びせてくる者もいる。
そういう人達は上からの指示で、護衛の冒険者たちがすぐさま駆けつけ、ギャーギャー喚こうがつまみ出されるのが日課だ。
それでも文句を言うやつは上から直々に鉄槌が下されるらしい。
私はそこまで見たことないけれど。
多少面倒だなと思うのだがしょうがないのだ。
なにせ、設置した渡り人から、心づけとして商業ギルドの職員全員がそれぞれ自販機の商品を月に3個選んで貰っている。
ちなみに私はお酒を貰っている。 なんていったって甘くて美味しいんだもの。
そしてさらにたまにこちらの世界では味わえない果実酒の試飲が出来るのだ、役得役得。
だから、またかと思いつつも、ご利益の代価だと思えばしょうがないという気になってくる。
対応マニュアル通りに名前を聞く。
それによって対処も変わってくるからだ。
「ラルフ=ブラウンと申します。 上の人にこちらをお見せ下さい」
そう言って何かの印章を見せられた。
見せられた印章はどこかの商会紋のようだ。
この街ではあまり使われてい無さそうだ、少なくとも私は見覚えが無い。
他の街から来た商会紋を使用できる身分の人物だ。
私の手に余りそうだと考えた。
「……少々お待ちくださいませ」
そう言って早々に上司に担当を変わってもらうことにした。
「失礼致します」
執務室のドアがノックされ許可を出せば慌てた様子の副ギルド長のマイケルがやって来た。
「ヘルバー商会の方がお見えです。 いかがいたしましょう」
「ヘルバー商会ですか?! ミラーリア侯爵家の使いの者が来たんですね……」
そう私が呟けばマイケルは重々しく頷く。
「ヘルバー商会?」
聞きなじみのない商会の名前に春子がそう尋ねる。
「えぇ。 ミラーリア侯爵領に籍を置く商会です。 あちらの領ではミラーリア侯爵が直接運営に関与する商会です。 私の手に余りますね……とはいえ来てしまったものはしょうがない。 応接室に案内してください」
取りあえず一旦要件を聞きつつ、後で領主に相談ですねと頭の中で段取りを付けながら応接室へと赴いた。
23
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。
おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる