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第三章
228話目
しおりを挟むサーウェル子爵の館
陛下から通達
「旦那様いかがなさいましたか」
「いや……陛下から突飛な話をされたのだ……」
「突飛な話……ですか?」
陛下の発表後、広場は騒然となった。
それもそのはず、渡り人の魔力が回復するという前代未聞の発表があったためだ。
ある者は歓喜の悲鳴を、ある者は恐怖の悲鳴を、陛下の御前であるにもかかわらず、広場はパニックに陥った。
その直後にヴァンドーム公爵がブリストウ辺境伯に向かって保護を申し出た。
それがこの前の通達の内容につながるとその場の貴族は一斉にその二人の動向に衆目を集めた。
……確かブリストウ領は渡り人の商品が買えると話題になっていたな。
あんな量の取り寄せなどすぐに魔力が尽きるではないかと思っていたが、そんな秘密があったとは……。
その申し出も、すぐさまベルゲマン公爵が仲裁に入り、ヴァンドーム公爵を叱りつけることによって潰されることになった。
この流れを見ていた貴族たちはブリストウ辺境伯の後ろ盾を知り、不平不満を言おうとしていた者は口を噤み、表立って対立する物は居なくなった。
それでも話を聞きたい者は山ほどいる。
だが、その機会はあっけなく潰された。
騒ぎに乗じてベルゲマン公爵と共に控えの間へと場を移されてしまい、さらにはそのまま王都のブリストウ辺境伯邸に帰宅されたからだ。
後日面会依頼を出したが、ブリストウ辺境伯はこの翌日、領へと帰還したため機会が得られることは無かった。
その場にいた貴族たちはどこか浮足立った気持ちでそれぞれの家へ帰ることになった。
……橋沼桜。
渡り人の魔力を回復させる渡り人。
それがあれば用済みとなった渡り人が商品として復活する。
欲に支配されたサーウェル子爵は陛下の言葉を思い出す。
直接自分が手を出せば後ろ盾のベルゲマン公爵や陛下に手を下されてしまう。
最悪は反逆罪により一家諸共全員処刑だ。
……だが欲しい。
その理性は危うい均衡で揺れていた。
っそうだ。
この件はまだ貴族にしか知られていない。
私が直接手を下さなければいいのだ。
そうすれば万が一失敗しても、犯人は別の者。 罪のなすりつけは可能だ。
そう考えはやる胸の高鳴りを抑えるべく胸に手を置き、深呼吸を数度繰り返す。
上手くやれば大丈夫。
幸いにもすでにザルフには問い合わせをしていた。
それを急かせば後は勝手にザルフがどうにかするだろう。
何せあいつは金になる物はまず私に見せてくるからな。
成功すれば、後は裏で金をやって橋沼桜を手に入れるも、ザルフを反逆者として捕らえて橋沼桜に恩を売るもどうとでもできる。
後者の方が陛下の覚えも良いかもしれんな。
陛下の保護下の者をこのサーウェル子爵が守った。
ザルフの命一つで陛下の恩を買えるなら安いものだ。
上手くいけば陞爵もあり得るかもしれん。
バラ色の未来を想像し口元が緩む。
「……こうしてはおれん、ザルフに発破を掛けねばなるまい。 おい!! すぐ通信の魔道具を用意しろ!!」
「か、かしこまりました」
この日王都商業ギルドのザルフの通信の魔道具には、知らせを聞いた貴族の問い合わせが殺到することになるのだった。
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