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第三章

224話目

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廃村 


「今から侯爵が来る?」

「そうだ」

「コウシャクサマガイマカラクル?」

「桜、落ち着け」

長谷川さんからそう聞かせられ理解が追い付かない。

「ここに? なんで?」

「そこは領主の落ち度だ」

そう言われて何も言えなくなる。

「分かりました。 それで私は何をすればいいんですか? 隠れてればいいんですか?」

「いや……紹介するって」

「紹介?! あの時の目隠し拘束の意味とは?!」

「それはそれ、そこんところはバレてないから意味はあります」

「そうなんですか?」

長谷川さんにつられてなぜか敬語になった。




「なんで俺らも?」

「ワシも呼ばれたのかのう?」

「僕は関係なくない?」

幌馬車のリビングに集められた倉敷さん、マッヘンさん、菅井さん。
揃いも揃ってすでに逃げ出しそうである。
というか私も逃げ出したい。

相良さんは現在魔獣退治に出てるので連絡がすぐに取れなかった。
巻き込めなかった悔しい。

いっそのことみんなでバラバラに逃走する? 意外といいかもしれないな。

そんなことを考えていたら、

「一斉に逃げ出してもフォルラーニ侯爵から逃げられると思うなよ」

長谷川さんにバレて釘を刺された。
私たちはギクッと体を固くした。

それからは侯爵達が来るまで空気が重かった。




「……ここが橋沼桜たちを匿っている廃村です」

間もなく到着すると言われて転移門の周りに待機した。
転移門が光りアルフォート様の声が聞こえた。
その後すぐに姿を現す。

アルフォート様に続いて長身の女性と男性が姿を現す。

転移門の光に耐えるように閉じられた瞳が開く。
切れ長の瞳と目が合った。

直ぐ逸らされ周りを確認するように辺りを見渡す。

「卿はこのまま戻りすぐさま陛下へ報告を」

女性がそうアルフォート様に指示を飛ばす。

「これは陛下へいの一番に報告すべき案件です。 反逆者とされたいのですか」

凄みのある声で告げる。
その迫力に私達一般人は気配を消した。

私たちはこの場に居ません。

「まぁまぁ、フォルラーニ卿落ち着いてください。 見てください、これが渡り人の力ですよ!! 最初に出てきたのが転移門とは……幸先良いですね」

後に続いて出てきた男性が転移門に恍惚とした表情を浮かべ頬ずりしている。

やべぇやつらきた。

アルフォート様に怒りをぶつけている女性と、転移門に恍惚の表情を浮かべて頬ずりする男性を見て私たちはそう思った。

「お前らも大概だからな」

長谷川さんの言葉は我々一同聞かなかったことにした。




「……それで、あなたが橋沼桜さんですか?」

「はい……」

迫力のある女性、フォルラーニ侯爵に見つめられ、私は無害ですという思いを込めて頬を引きつらせながら微笑む。

「魔力を回復できる魔法の持ち主ですね?」

「はい」

今この場には私とフォルラーニ侯爵とアルフォート様の3人しかいない。

ドルイット侯爵と倉敷さん達は同士だと互いに理解し、早々に4人で仲良く工房へ引きこもってしまった。
またの名をフォルラーニ侯爵から逃げたと言ってもいいと思う。

出来れば私も連れて行ってほしかった。

「……そんなに怖がらなくても良いわ、あなたに危害を加えるつもりはないから」

「はい?」

「さっきは取り乱して申し訳ないわ、ちょっと私の想定が甘かったせいで怖がらせてしまったようですね。 申し訳ありません」

「いえ……」

「私は単なるおまけで付いてきたようなものよ、用件は済んでいたわ。 気を楽にしてくださいな」

そう言ってもらえて少しだけ、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。

「それでは要件というのは?」

「先ほど3人と出て行った侯爵……ドルイット侯爵の付き添いよ、お目付け役と言えばいいかしら……連れ帰る役目が必要だと感じたのよ。 爵位だけだと……あんなでもここに居る誰よりも上になってしまうからね」

アルフォート様は辺境伯だっけ? ……確か伯爵よりも侯爵の方が身分が上だ。
……先ほどの魔道具への熱中ぶりを見ると確かに宥める人……というか連れ帰る人が必要そうだね。
下手したら処罰されちゃう。

「私も貴女と話をしてみたかったから丁度いいわ、先ほどもアルフォートに話をしたのだけれども貴女うちの領に来る気はない?」

「へ?!」

「フォルラーニ侯爵、それは終わった話ではないですか」

アルフォート様が話に割り込む。
そんな話出てたの?! 私他の所に移されちゃうの?!

「一応話だけはしておくつもりよ。 あなたはきっと桜さんに伝えないつもりでしょうから」

フォルラーニ侯爵がそう言うとアルフォート様は押し黙ってしまった。

「一応味方のつもりよ? あなたに何かあったら頼れる人が居なくなってしまうでしょ。 そう言っても不安かしら?」

いぶかしがるようにフォルラーニ侯爵を見つめるアルフォート様。

「はぁ……正直に言いましょう。 あなたに潰れられるとこちらも困る。 ここがどれだけ重要な地か分かるでしょ。 だから手助けするのよ。 これで良いかしら」

フォルラーニ侯爵の言葉を聞いて苦虫を噛んだような顔をするアルフォート様。
どうやら思い当たることがあるみたいだ。

「……ご助力感謝します」

「宜しい。 だから桜さん、何かあったら連絡を頂けるかしら?」

「あ……分かりました。 ありがとうございます」

「……さて、こっちの話は済んだから後は魔道具バカ侯爵を回収しますか」

魔道具バカ侯爵……?!

私だったら恐れ多くてそんな言葉言えない!!

そんなことを思いながらフォルラーニ侯爵を倉敷さんの作業小屋へ案内した。


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