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第三章
223話目
しおりを挟む「勘違いしないで欲しいけど、無理にとは言わないわ」
「えぇ、あくまでも提案です」
そう言う二人の表情からは本心が読み取れない。
「まずは私から、良いですか?」
「えぇ、レディーファーストです」
「では、この間こちらに渡り人を頼みましたよね」
「はい」
陛下経由で依頼が来た件か。
「こちらでも回復を確認いたしました。 その件につきまして、願いを聞き入れて頂きありがとうございます」
「私に決定権はありません、陛下の指示に従ったまでです」
ポーカーフェイスを保ったままフォルラーニ侯爵の発言を流す。 感謝の言葉も私ではなく陛下にお願いしたいものだ。 これではまるで私が決定したようではないか。
「そう言う事にしておきますね。 アルフォート卿も知っての通り、私の領地の騎士達は常に怪我がつきものです。 渡り人の回復魔法の必要性、分かってますよね」
「そうなんですか」
「正直に言いますと、相沢の魔力が少なくなった辺りから教会に依頼をするようになりました。 少なくない金銭もお支払いしてます」
「そうですか」
「今後もおそらく相沢をこちらに寄越し、回復を頼むようになると思います。 ただ、そのせいでこちらに無理な願いをしてくる者も出ると思います、伯爵よりも侯爵の肩書が必要になる場合も」
その展開もあり得る。
所詮は私は辺境伯。
爵位の上では並みの伯爵より上と言うだけだ。
陛下からの指示という免罪符もあるが、他からの圧力が無いという訳にはいくまい。
苦しい場面が出てくるだろうとフォルラーニ侯爵が存外に言うのも分かる。
分不相応ではないか、と。
「勘違いしてもらいたいわけではないのですが、私はアルフォート卿が苦しい思いをするならばこちらで引き取る気があるというだけです。 望まなければ現状維持でもいい。 ただ、他の者の所に屈する前にこちらに相談してください、力になります。 陛下が国の貴族全員に発表する前にそれを伝えたかっただけです」
そう言い終えるとフォルラーニ侯爵は微笑んだ。
恐らくこの魔法の威力を理解した上での申し出だろう。
「……お気持ちありがたく受け取ります」
「あのー……私の事をお忘れしないで頂きたいのですが」
良い雰囲気でまとまりかけた話がドルイット侯爵の言葉で蒸し返される。
「私の所でも引き取っていいというのはフォルラーニ卿と同じ気持ちです。 なのであえてその話は置いておきましょう、私は別のことが気になりまして、そちらの件でも伺いたかったのです」
「別の事……ですか?」
「はい、こちらに渡り人の倉敷が居るでしょう」
……ドルイット侯爵は倉敷が目当てだったか。
確かに、魔道具作りの渡り人の動向を把握しててもおかしくない、が、このタイミングとは……。
「隠しても無駄ですよ、把握してますから。 まぁ、良いでしょう。 問題は倉敷が魔法で魔道具を作り出せる渡り人と言う事、そして今回魔力を回復できる渡り人が出現したと言う事。 私が言いたい事……分かっていただけますか?」
そのつながりに気づいたか……。
「……陛下にその事報告致しましたか?」
人当たりの良い笑顔を見せていたドルイット侯爵が、その言葉を継げると思わず喉が鳴る。
……忙しさにかまけてまだ報告していなかった案件だ……。
「別に私の方から可能性があると言う事で陛下に報告することは可能です。 ただ、その場合あなたに対する陛下の信頼は低下するでしょうね」
フォルラーニ侯爵はそのつながりに気づいていなかったのか微かに目を見開いた。
「私が口を噤んでおいてもいいんですが、他の者が気付くかもしれませんよ? 何せ倉敷を欲していた貴族は少なくない」
「ご忠告ありがとうございます。 陛下への報告は私がすぐさま致しましょう」
「いえいえ、感謝して頂けるのならば……それ相応の誠意を見せて頂きたいですね」
フォルラーニ侯爵がドルイット侯爵の言葉を聞き微かに殺気を漂わせる。
決定的な言葉を言えばたとえ素手でも処しそうだ。
となれば先ほどの言葉に嘘偽りはなさそうだ。
「誠意……でしょうか?」
だが次のドルイット侯爵の言葉で場の空気は一変した。
「はい、私にぜひとも見学させて下さい!!」
「は?」
「え?」
私とフォルラーニ侯爵から間抜けな声が出た。
「レシピ産の魔道具が量産されているんでしょう? 噂はこちらにも届いてますよ。 自販機……でしたっけ? あれもレシピ産なんでしょう? 実際に作られている現場拝見させてください」
魔道具バカがここにも居た。
長谷川に連絡を入れ、フォルラーニ侯爵共々廃村へご案内する羽目になったのだった。
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