221 / 274
第三章
221話目
しおりを挟むドルイット侯爵領のドルイット侯爵の館
こちらもフォルラーニ侯爵と同じように移動に時間がかかる故移動はグリフォンで済ませた。
今にも倒れそうなほど顔色の悪い樋口を、戻ってくるなりそのまま執務室に連れて来させた。
「樋口それでは本当に回復したんですね」
座り心地の良いソファーに横にならせて早速報告を聞く。
樋口は筋肉痛なのか恐怖心からなのかよく分からないが子羊のようにプルプル震えていた。
この男は行きも帰りもグリフォンは嫌だと叫んでいた。 嫌だ嫌だ言いながらも暴れずに大人しく乗る姿は奇妙でそれはとても可笑しかった。
思わず笑ってしまい、恐怖で錯乱状態の樋口に『バーカバーカ』 と語彙力のかけらもない言葉で罵倒をされた。
だが樋口はちゃんと落ちずにブリウスト領にたどり着けたらしい。
賢いグリフォンには後でご馳走を用意しておこうと思う。
この樋口という猫背の男は治癒魔法の使い手だ。
理由は痛いのが嫌だからなんだと。
臆病な性格だが、あちらの世界にはない魔道具に興味があったようで、魔獣の素材もこわごわと触れたり文句や悲鳴を上げながらも加工するすべを学んでいる。
警戒心があるのかないのかよく分からない性格で、ここに来た当初はけんか腰だった。
初対面で私に対し自らここに来たのにも関わらず『俺は貴族の奴隷にはならない!!』 と断言された。
目が点になるという経験は初めての経験で興味深かった。
その様子はまるで子猫がいろんなものに対して警戒するようで見ていて面白かった。
だが、誰かが怪我をすれば、自分が怪我を見るのが嫌だからと言う理由で飛んでって怪我を見て卒倒しながら治す。
よく分からないが非常にひねくれて素直で人間味のある面白い人物だ。
「はい、確かに回復致した。 とても怖かった」
「それはグリフォンに対してかな? 何に対してかな?」
「全部だ全部。 グリフォンはまず顔が怖いし、ふさふさなのに撫でようとすると嘴鳴らしながらキシャ―って威嚇するし高いし早いし寒いし死ぬかと思った。 ふさふさは良かった」
「全部グリフォンに対してだね」
真顔でそう報告する樋口。
取りあえずふさふさは気に入ったようだ。
「付いた途端帰りもこいつに乗らなくてはならないのかと絶望したが手触りの為に耐えた。 俺は凄いと思う」
何がだ。 何が凄いのかよく分からん。
ただ手がワキワキと動いているのでよほどグリフォンの毛並みがお気に召したのであろう。
よし、次も行けそうだな。
「それでどうやって回復したのかは見れたのかい?」
「見れなかった。 ……見れなかったというか怖かった!! あれめっちゃ怖かった!!!!」
樋口はソファーの上でガクブルと震え出した。 一体ブリウスト領で何があったんだ。
尋常ではない震え具合を見てそう思う。
「部屋に入ったら手を拘束されて目隠しと耳栓、口にタオルを巻かれた拉致された奴がいた」
「!?」
「え? 何この変態って思ったら俺もその場で手を拘束された。 その時点でこれは罠だったんだな、俺の人生終わった、侯爵に騙された死ねって思った」
「!?」
「目隠しと耳栓と口にタオル巻かれて担がれてソファーに座らせられた。 めっちゃ怖かった。 侯爵のくそ野郎って思った」
「!?」
「そしたら急に立たせられて歩かされて拘束を解かれた。 そしたら隣の奴も拘束を解かれてて熊みたいなでかいやつで死ぬ、侯爵死ねって思った」
「!?」
「んで今魔力確認したら回復してた。 俺はやり遂げた。 俺は凄い」
そう言うと樋口は力尽きた。
結局何一つとして分からないままだ。
……と言うか今魔力確認したのかこいつは。
さんざん人の悪口言って倒れたぞ、私は何度死ねって言われたんだ?!
理解が追い付かなくて多少怒りも込み上げてきたが、青い顔して白目を剥いてソファーに倒れた樋口を見て、なんだか無性に笑えてきた。
だがそれはそれだ。 次回はもっと怖い目にあわせてやろうと誓った。
「まぁ、魔力が回復するのが分かっただけでも良しとするか。 お疲れ様です、樋口」
そう言って次回はどうやって怖がらせようかと考えながら執事に指示して樋口を部屋まで運ばせた。
34
お気に入りに追加
749
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです
新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。
おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる