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第三章
216話目
しおりを挟むとある伯爵家
「王室からの手紙?」
この日王国にある貴族の下に王室から手紙が一斉に届いた。
執事から手渡された手紙を受け取るとペーパーナイフを使い開封する。
そこには橋沼桜を王室保護とする旨が書かれており、違反者は王室への反逆と捉えると簡易的に書かれていた。
内容については1カ月後に説明すると王城への招待状も入っていた。
「どういうことだ? 王室が渡り人を保護?」
前例のない発表に困惑してしまった。
子爵家
「渡り人? 橋沼桜? 誰だ? 今そいつはどこにいる? おい!! 誰か来い!!」
手紙を見た子爵家の当主は扉の向こうに控えさせていた執事を呼んだ。
「お呼びでございますか? 旦那様」
「あぁ、王宮からこんな内容の手紙が届いた」
そう言って執事に手紙を読ませる。
手紙を読んだ執事は困惑の表情を見せた。
「どうなっているのかよく分からん、この橋沼桜を囲うにしても遠ざけるにしても情報が足りない。 至急調べてくれ」
「かしこまりました」
別の子爵家
「渡り人を保護だと……そんな価値があるのか? 渡り人等使い捨ての駒ではないか?」
こちらの子爵家では配下の部下と共に顔を突き合わせて机に置かれた手紙を見下ろす。
「なにかあるのでしょうか、そう言えば最近来た商人がブリウスト領で異世界の品が購入できると話してましたね」
「ブリウスト領で? 王都の商業ギルドではなく?」
「はい、ブリウスト領でと言っておりました。 なんでも『じはんき』 と呼ばれる魔道具を使用して販売していると言っておりました」
「ふむ……領内の商人から話を聞いておけ、王宮への呼び出し前に出来る限り情報が欲しい」
「かしこまりました」
とある伯爵家
「至急渡り人を確保しろ!!」
「旦那様?!」
手紙を見た主人である伯爵の声に驚く執事。
「ブリウスト領は上手くやったみたいだな。 渡り人を利用して王室に近づくなど……」
その部屋の住人である伯爵家の当主はそう言って手紙を握りしめた。
「出遅れてなるものか。 今いる渡り人の情報を洗え。 我が領に居る渡り人は全て連れて来い。 断る者は首根っこひっ捕まえてでも連れて来い。 いいな!!!!」
「か、かしこまりました」
執事が出ていった部屋で伯爵が呟く。
「持っている魔法によっては保護した我らも覚えがめでたくなるな……」
橋沼桜もなにか便利な魔法の者だったのだろう。
それを陛下が気に入られたに違いない。 なら私にも芽がありそうだ。
陛下からお褒めの言葉を頂く自分と悔しがる他家を思い浮かべ、口元がゆがんだ。
とある伯爵家
「野心かな貴族と渡り人の動向に目を光らせておけ」
「渡り人の確保……ではないのですか?」
「あぁ。 何か渡り人の間で変化があったみたいだ。 この手紙で勘違いした輩が出そうだ。 下手に巻き込まれでもしたら先祖に顔向けも出来ん。 ……もし渡り人に保護が必要な場合は保護。 あくまでも保護だ。 強制はするなよ、同意が必須だ。 いいな」
「かしこまりました」
とある男爵家
「こんな手紙が陛下から届いたんだ」
「まぁ、渡り人……ですか? こんな辺境の地で渡り人ですか?」
この男爵家はブリウスト領とは王都を挟んで反対側の領地にある。
先祖がこの地の伯爵に功績を称えられ貴族へと取り立ててくれた為だ。
渡り人との関係は希薄、と言うか渡り人は王都で見たことがあるくらい。
この地で見たこともないなと思いながら届けられた手紙を見た。
「そうなんだが……まぁ一応気にかけてくれ。 来ることはないと思うが……」
「かしこまりました。 メイドたちにも伝えておきますね」
領地の貴族には伯爵家の者が命を下すだろう。
私は家族や使用人たちに話すくらいで十分かな。
「あぁ、よろしく頼む」
こうして桜の話は国の貴族に広まることになった。
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