上 下
213 / 274
第三章

213話目

しおりを挟む




王都の商業ギルド

王都の商業ギルドはブリストウのギルドと違い室内が豪華に飾られている。
商業ギルドの顔、扉から始まり有名な彫刻家に彫らせた彫刻が置かれ、絨毯も手入れが行き届きさらに半年に一度は交換がなされている。
それもすべては貴族御用達の為だ。 みすぼらしいものだと蔑まれ侮られてしまう。
他の商業ギルドから集まった異世界の商品がここに集まり、それを求め貴族の使用人が、もしくはお得意様が連日やってくる。

そうやってここは王国随一のギルドとなった。

商業ギルドの5階、商業ギルド長のザルフの私室
この部屋も高価な家具で彩られ部屋には大枚を叩かないと買えないという通信の魔道具まで置いてあった。
それも内密に貴族とやりとりをするためだ。
もちろん部屋には防音の魔道具も置かれていた。

ブリストウ領の商業ギルドに通信をし終えると部屋の主であるザルフは悪態をついた。
私腹を肥やし身に詰めたせいか恰幅が良く、身に着ける物には見栄えの良いものが目立つ。

「ええい、オーフェンめ噛みつきおって、忌々しい」

切った勢いそのままに座り心地の良さそうな椅子にドカッと腰を下ろす。
ザルフの体重に椅子はギシリと音が鳴った。

カナメルの奴よりはましだと今まで放っておいたが……そろそろ変え時か。
あやつも随分長い事ブリストウ領に置いてしまったな。

あそこの領は他の領と違い任命する手順が面倒だ。
それは何より特殊な森のせい。
渡り人がやってくる森を有するが故だ。
それゆえ金も生む。
渡り人の持つ品物は大金を動かす。
この国にはない未知の味、それに毎回来る渡り人によって物も変わる。
その味がお金を払っても購入できない希少性を孕み、味わうことにより貴族間での羨望につながる。

その利権を得ようと儂の所にお金が舞い込む。
ソルレイユ伯爵とナルーヴァ伯爵の所が特に見栄っ張りで熱心だった。
連日手にした金銭を思い出し顔がにやける。

おおっといかん。
だから任命するには色々と貴族の思惑が絡んでしまう。
下手に紐付きの者を送ってしまえば儂の所に商品が届かず他に流れてしまい、逆に真っ白過ぎると貴族の誘惑に負けて流してしまう。

そう言った面でオーフェンは実に便利だった。
渡り人から買い取った商品を言う通りにこちらに流し、貴族からの要求は軽くいなす。
それに胡坐をかいた結果が今回につながったのだろう。

……領主と言っていたな。
長くあちらに居たせいで、それなりに挨拶する中になったのだろうな。
だが、あの領主は他の貴族と違い渡り人とは関わろうとしない。
私も何度か商品を勧めはしたがその時の購入のみでつながりは持とうとしてこなかった。
それぐらい潔癖だ。
まぁ陛下から任命されている地の領主だ。 簡単には靡くまい。
顔見知り程度をさも親しげに話すなど……あやつもとうとうおかしくなったのだろうな。

面倒だが後任を考えるか。

それよりも今度来た渡り人は取り寄せだったのか。
全く……無駄に商品を他に流しおって……。
しかも一度魔力を大量に消費したと聞いたぞ!! 全く儂の商品を無駄に使いおってからに!!
勝手をしたオーフェンに苛立ちを覚える。

……まぁいい。 あれだけ言ったんだ。 しばらくすればこちらに届くだろう。
渡り人もこちらに来てから十分躾けねばな。 勝手に魔力を使われぬように。
むろん王室には気づかれないようにせねば。

……とするとどこが空いていたかな?
王都南のスラムの地下は一杯だし、北側は王城に近すぎる。
城壁側のあの場所がいいか?
あそこは魔道具作りの渡り人用に空けてたな。
全くあの渡り人はどこに行ったんだ? 追っ手を放ってるが一向に戻って来んし!!
サーウェル子爵からの問い合わせが煩いというのに。

連絡が無い以上これ以上考えても仕方のない事だと深く息を吐き頭を振る。
考えを戻し、報告にあった魔道具を思い出す。

にしても自販機とは一体……。

これも新しく売り出せるかもしれんのう、いくらで売ろうか。
これからのことに思いをはせて笑みがこぼれた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

処理中です...