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第三章
212話目
しおりを挟む廃村にて
「販売数どうだ?」
「あ、長谷川さん販売数ですか?」
「事務用品よりお酒の方が売れてます。 特に長谷川が推したビールが好調です」
販売開始から1週間以上が過ぎ、廃村の幌馬車のリビングにて、補充用の商品をテーブルに並べタブレット操作をして補充していると長谷川さんに尋ねられた。
この1週間直接見に行くことはかなわないけれども噂は色々聞いていた。
まずは灯里と高梨さんからの報告。
初日の午後に商業ギルドへ行ったら満員御礼、商業ギルドから人が溢れ自販機の周りにも人だかりが出来てすごい事になっていたと聞いた。
スマホで写真を撮ったようで、写真を見せてもらったらすごい人だかりだった。
春子さんからの報告。
設置した人は誰だと問い合わせが殺到、取次願い、自販機の作成願い、販売願い、主に商人の圧が凄いらしい。
それをオーフェンさんが笑顔で黙殺しているそうな。
僅かにある貴族の問合せは面倒臭そうな相手の場合領主の名前を出して断ったそう。
僅かで済んでいるのは領主が配下の貴族に根回しをして下さったかららしい。
だが欲に目が眩んだ僅かな者が商業ギルドに人を送ったみたい。
それと自販機の使い方が分からず職員の一人がつきっきりらしい。
それに関してはオーフェンさんと相談して今後のことについて考えた方が良いよね。
夜間のクレームもついたから両替は抽選方式でいいかと聞かれた。
良いけれどどうするんだろう?
先着何名までで毎日抽選を行うの?
結局徹夜で並んで整理券求める人でるんじゃないかな?
それとも人数を数えて平均を取ってその枚数分用意するとか? 翌日に当選者を張り出すとかして交換するのかな?
それも手間だよね。
「そうかそうか、桜良いんだぞ? 銘柄増やしても」
「今のところ増やす予定はないですよ。 枠はまだ空けておきます」
「まあ冗談はともかく、まだ人は増えそうだな」
「……日に日に増えたいっているみたいですね。 言い出しっぺの私も手伝いに行きたいんですがオーフェンさんに止められました」
「止めとけ止めとけ。 日に油を注ぐんじゃねえ、余計な手間が増えるだけだ。 と言うかなんで増えてるか理由知らないのか?」
「理由ですか? 珍しいからじゃないんですか?」
「珍しさもあるが……皆桜の魔力が回復するの知らんだろ」
「そうですね。 一応内緒にしてますもん」
「んでこの間のスタンピードでみんなに分かるくらい魔力使ったろ」
「全部は覆いませんでしたけど……はい」
「ちなみに基本的に渡り人の品物は冒険者ギルドのあの競りか商業ギルドに流れる。 渡り人も最初から商業ギルドに持ちかける者が多いな」
「私も商業ギルド紹介されました」
高梨さんやハンスさん達に教えてもらったね。
「つまり他の商人の手に渡る機会がそう無い」
「言われてみれば私も果物屋さん以外売ってない……かも」
「んで今回自販機通してだが皆にチャンスが来た。 しかもスタンピードで魔力をかなり使ったと誤認されている。 つまりいつ無くなるか分からないと思われてる」
「……これを逃したら次いつ渡り人の商品が手に入るか分からないですね……」
「……まだまだ人増えるぞ」
「ひーそこまでだと思わなかった!! 今からでも撤去した方が良いですかね」
「まーそこはオーフェンさんが良いっつったんなら任せとけ」
「あと、ここから本題だが……そろそろ他領の貴族も動きそうだ。 廃村から出る際は俺か相良に声を掛けること。 いいな」
「他領の貴族がですか?」
「あぁ、こちらで商品を手に入れた商人が他領で販売したらしい」
「分かりました。 となると今後商業ギルドに殺到する人が商人だけでなくお貴族様も増えそうですね……」
「まぁ増えるだろうなぁ。 それは当然だろ? むしろこの領に居る貴族の自制心の高さに感服するわ」
「私あまり貴族の事情に詳しくないのですが、この領に居る貴族ってアルフォート様……領主一家以外どれくらいいるんですか?」
「ん? まぁ……それなりに居るな。 ほとんどが子爵や男爵、準男爵だが。 この国では領地を運営するのに領主の独断で子爵までなら授爵出来る。 人数制限や王室へ届け出等はあるがな」
「領主が任命出来るんですか?」
「あぁ。 このブリストウ領にも授爵した子爵や男爵、準男爵は居る。 その人たちにとって領主は国王陛下とも違い接する時間が長い分、そして爵位を授爵してもらったという恩義から領主一家を崇拝する者も多い。 その結果があの統率だ」
「そうなんですね」
アルフォート様への忠誠の高さがうかがえて心底感心した。
それと同時にアルフォート様やオリヴィア様に対して不敬を働いていなかったか必死に思い返した。
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