210 / 274
第三章
210話目
しおりを挟む「国王陛下の御成りです」
侍従が先ぶれを出すと皆が一斉に席を立ち頭を垂れる。
間もなくドアが開き、移動し柔らかい絨毯と布のこすれる音だけが室内に響く。
侍従が椅子を引き陛下が腰を下ろす。
「皆の者、楽に」
そう声をかけられ頭を上げる。 陛下の御尊顔は廃村に来ていた時の柔らかい表情ではなく、王として為政者としての表情をしていた。
もう一声かけられて腰を下ろした。
いつの間にか空いていた残りの椅子にベルゲマン公爵が腰を下ろしていた。
「皆の者に伝える。 渡り人、橋沼桜は国の重要人物として保護とする。 何人たりとも魔法の強要、害することを禁ずる、これを破りしものは国家に対する反逆者とする。 異論は認めん、本日より2週間後正式に発表する。 各々違反者が出ぬよう準備されたし」
……やはり桜の件か。
「なっ……渡り人を保護ですと!? 何処の馬の骨とも分からぬ者を!? 陛下気は確かか?!」
各々陛下の言葉を飲み込むまでに時間を要する中、いち早くヴァンドーム公爵から声が上がった。
「黙れ。 ブルクハルト卿、陛下に異議を唱えるつもりか」
ベルゲマン公爵がすかさずヴァンドーム公爵を睨み付け嗜める。
「しかしっ!! 渡り人の保護など……それはまるで渡り人が上のようではないか!! ここは……メイリス王国は我々の物だ!! 儂は認めん!!」
ヴァンドーム公爵はもとは王族。 国に対する愛国心も強い。
それだけではなく自分たちとは異なる者が、じわじわと国の中枢に侵略していく、ついには王、身内までもがその餌食にと言う気持ちなのかもしれん。
「お主が認めずとも陛下は認めた。 それが全てだ」
「……ぐっ……くそっ!!」
顔を赤くしワナワナと拳を振り上げる。 怒りの矛先は誰に危害を与えるでもなくテーブルへと向かい
バンッ!!!! と机に叩きつけられ大きな音が鳴った。
「陛下」
そんな騒ぎが続く中でフォルラーニ侯爵の手が挙がった。
「レイチェル卿なんだ?」
「僭越ながら……理由をお聞かせ願えますか? 下の者に説明するにあたり陛下の思いと相違があるといけませんので」
「そうだな」
その陛下の言葉で視線が陛下に集まった。
先ほどまで騒いでいたヴァンドーム公爵は目をギラつかせ、下唇を噛みしめながら見ている。
「橋沼桜は渡り人の魔力を回復させる。 代償はスタンピード。 それが理由だ」
その言葉を聞いた者たちは一斉にこちらを振り返った。
今回のブリウスト領のスタンピードの話は過去例を見ない規模と言うだけあって国中に広まった。
「引き続きブリウスト領にて保護を頼むぞ」
「かしこまりました」
「陛下!! 危険すぎます!! それではこの国は渡り人に乗っ取られてしまうではありませんか!! 奴らには寿命がないんですぞ!!!! その上魔力まで回復されたら……過去の……先先代のことをお忘れか?!」
ヴァンドーム公爵がなおも食い下がるが他の者達は皆影響について考えを巡らせているようで口を挟む者はいない。
「黙れ」
「しかし!!」
「黙れ!! ブルクハルト卿。 これは陛下の決定だ。 異を唱えると言う事は裁かれる覚悟があるのか」
「儂はこの国が……!! 兄上はどうなっても良いとお考えか?!」
「私は陛下の意向に従う。 それだけだ」
ヴァンドーム公爵とベルゲマン公爵の言い合いがあったにも関わらず他の者は心ここにあらずと言った面持ちだ。
まぁ……そうだろう。 私も知ったときは驚いたものな。 にしても引き続き私の領地にて保護はありがたい。 なんだかんだ言ってあの廃村が気に入っている様子だし無用な軋轢は避けたい。 特に相良は何をしでかすか分からないからな。 この前屋敷に忍び込んだと報告もあったし。
「此度の要件は以上だ。 皆の者大儀であった」
そう言い陛下は退室された。
残された者達は知らされた事の大きさにしばし席に留まり続けるのだった。
陛下が退室されて以降ベルゲマン公爵とヴァンドーム公爵以外皆が席に座ったまま沈黙が続いた。
「アルフォート卿」
「はい、ミラーリア侯爵なんでしょうか」
最初に話しかけてきたのはミラーリア侯爵だ。
質問攻めは覚悟していたが、最初に話しかけてきたのがミラーリア侯爵とは意外だ。
てっきりフォルラーニ侯爵辺りが話しかけてくると思ったが。
スタンピードに一番興味があるのはそこだろうからな。
「陛下の話の出所は卿か? 此度の貴公領のスタンピードの経緯もそれか?」
「……そうです。 私が報告致しました」
「回復に制限はあるのかしら」
ミラーリア侯爵へ回答していたらフォルラーニ侯爵が割って入ってきた。
それを聞いたミラーリア侯爵は身を引き聞き役に回った。
「今のところは分かりません」
フォルラーニ侯爵へ譲ったのだと理解し返答した。
「副作用はスタンピードのみか?」
「今のところはそうです」
「橋沼桜の魔法はどんな魔法なのかしら」
「あちらの物を取り寄せる魔法です」
「どうやって回復するのかしら」
「取り寄せた物を使用して、です。 それ以上はお答えしかねます」
「私から最後の質問、スタンピードを鎮圧した渡り人も回復したのかしら」
「……はい、回復致しました」
「そう」
そう言うとフォルラーニ侯爵はにっこりと笑みを浮かべた。
「では次に私もよろしいですか?」
次はドルイット侯爵だ。 誰もかれも気になって仕方がない様だ。
「はい」
「スタンピードの発生が自在に行えるようになった、と言うことですか」
「スタンピードの発生は自在に行えます。 それは検証しました」
「そうですか、それはブリストウ領だけですか? 他領でもですか?」
「他領で行ったことが無いのでそれは分かりかねます」
「わかりました。 ありがとうございます」
一応陛下がブリストウ領で保護と言質は取ってあるが油断は出来ないな、だいぶ興味惹かれているようだ。
これから繰り広げられるであろう攻防戦を想像し、いやがおうにも巻き込まれる事実に喉の奥が鳴った。
35
お気に入りに追加
791
あなたにおすすめの小説
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。
マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。
空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。
しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。
すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。
緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。
小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる