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第三章
210話目
しおりを挟む「国王陛下の御成りです」
侍従が先ぶれを出すと皆が一斉に席を立ち頭を垂れる。
間もなくドアが開き、移動し柔らかい絨毯と布のこすれる音だけが室内に響く。
侍従が椅子を引き陛下が腰を下ろす。
「皆の者、楽に」
そう声をかけられ頭を上げる。 陛下の御尊顔は廃村に来ていた時の柔らかい表情ではなく、王として為政者としての表情をしていた。
もう一声かけられて腰を下ろした。
いつの間にか空いていた残りの椅子にベルゲマン公爵が腰を下ろしていた。
「皆の者に伝える。 渡り人、橋沼桜は国の重要人物として保護とする。 何人たりとも魔法の強要、害することを禁ずる、これを破りしものは国家に対する反逆者とする。 異論は認めん、本日より2週間後正式に発表する。 各々違反者が出ぬよう準備されたし」
……やはり桜の件か。
「なっ……渡り人を保護ですと!? 何処の馬の骨とも分からぬ者を!? 陛下気は確かか?!」
各々陛下の言葉を飲み込むまでに時間を要する中、いち早くヴァンドーム公爵から声が上がった。
「黙れ。 ブルクハルト卿、陛下に異議を唱えるつもりか」
ベルゲマン公爵がすかさずヴァンドーム公爵を睨み付け嗜める。
「しかしっ!! 渡り人の保護など……それはまるで渡り人が上のようではないか!! ここは……メイリス王国は我々の物だ!! 儂は認めん!!」
ヴァンドーム公爵はもとは王族。 国に対する愛国心も強い。
それだけではなく自分たちとは異なる者が、じわじわと国の中枢に侵略していく、ついには王、身内までもがその餌食にと言う気持ちなのかもしれん。
「お主が認めずとも陛下は認めた。 それが全てだ」
「……ぐっ……くそっ!!」
顔を赤くしワナワナと拳を振り上げる。 怒りの矛先は誰に危害を与えるでもなくテーブルへと向かい
バンッ!!!! と机に叩きつけられ大きな音が鳴った。
「陛下」
そんな騒ぎが続く中でフォルラーニ侯爵の手が挙がった。
「レイチェル卿なんだ?」
「僭越ながら……理由をお聞かせ願えますか? 下の者に説明するにあたり陛下の思いと相違があるといけませんので」
「そうだな」
その陛下の言葉で視線が陛下に集まった。
先ほどまで騒いでいたヴァンドーム公爵は目をギラつかせ、下唇を噛みしめながら見ている。
「橋沼桜は渡り人の魔力を回復させる。 代償はスタンピード。 それが理由だ」
その言葉を聞いた者たちは一斉にこちらを振り返った。
今回のブリウスト領のスタンピードの話は過去例を見ない規模と言うだけあって国中に広まった。
「引き続きブリウスト領にて保護を頼むぞ」
「かしこまりました」
「陛下!! 危険すぎます!! それではこの国は渡り人に乗っ取られてしまうではありませんか!! 奴らには寿命がないんですぞ!!!! その上魔力まで回復されたら……過去の……先先代のことをお忘れか?!」
ヴァンドーム公爵がなおも食い下がるが他の者達は皆影響について考えを巡らせているようで口を挟む者はいない。
「黙れ」
「しかし!!」
「黙れ!! ブルクハルト卿。 これは陛下の決定だ。 異を唱えると言う事は裁かれる覚悟があるのか」
「儂はこの国が……!! 兄上はどうなっても良いとお考えか?!」
「私は陛下の意向に従う。 それだけだ」
ヴァンドーム公爵とベルゲマン公爵の言い合いがあったにも関わらず他の者は心ここにあらずと言った面持ちだ。
まぁ……そうだろう。 私も知ったときは驚いたものな。 にしても引き続き私の領地にて保護はありがたい。 なんだかんだ言ってあの廃村が気に入っている様子だし無用な軋轢は避けたい。 特に相良は何をしでかすか分からないからな。 この前屋敷に忍び込んだと報告もあったし。
「此度の要件は以上だ。 皆の者大儀であった」
そう言い陛下は退室された。
残された者達は知らされた事の大きさにしばし席に留まり続けるのだった。
陛下が退室されて以降ベルゲマン公爵とヴァンドーム公爵以外皆が席に座ったまま沈黙が続いた。
「アルフォート卿」
「はい、ミラーリア侯爵なんでしょうか」
最初に話しかけてきたのはミラーリア侯爵だ。
質問攻めは覚悟していたが、最初に話しかけてきたのがミラーリア侯爵とは意外だ。
てっきりフォルラーニ侯爵辺りが話しかけてくると思ったが。
スタンピードに一番興味があるのはそこだろうからな。
「陛下の話の出所は卿か? 此度の貴公領のスタンピードの経緯もそれか?」
「……そうです。 私が報告致しました」
「回復に制限はあるのかしら」
ミラーリア侯爵へ回答していたらフォルラーニ侯爵が割って入ってきた。
それを聞いたミラーリア侯爵は身を引き聞き役に回った。
「今のところは分かりません」
フォルラーニ侯爵へ譲ったのだと理解し返答した。
「副作用はスタンピードのみか?」
「今のところはそうです」
「橋沼桜の魔法はどんな魔法なのかしら」
「あちらの物を取り寄せる魔法です」
「どうやって回復するのかしら」
「取り寄せた物を使用して、です。 それ以上はお答えしかねます」
「私から最後の質問、スタンピードを鎮圧した渡り人も回復したのかしら」
「……はい、回復致しました」
「そう」
そう言うとフォルラーニ侯爵はにっこりと笑みを浮かべた。
「では次に私もよろしいですか?」
次はドルイット侯爵だ。 誰もかれも気になって仕方がない様だ。
「はい」
「スタンピードの発生が自在に行えるようになった、と言うことですか」
「スタンピードの発生は自在に行えます。 それは検証しました」
「そうですか、それはブリストウ領だけですか? 他領でもですか?」
「他領で行ったことが無いのでそれは分かりかねます」
「わかりました。 ありがとうございます」
一応陛下がブリストウ領で保護と言質は取ってあるが油断は出来ないな、だいぶ興味惹かれているようだ。
これから繰り広げられるであろう攻防戦を想像し、いやがおうにも巻き込まれる事実に喉の奥が鳴った。
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