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第三章
209話目
しおりを挟む王城
手紙での呼び出し2日前に王都入りし登城の準備をした。
そして迎えた当日。
家紋が入った馬車に乗り王城へと登城する。
城門にて門番に手紙を見せ門をくぐる。
城の侍女に案内され議場へと通された。
部屋に入ると、時間には少し早いが、すでに何人か到着していた。
「アルフォート卿いつも通り早いわね」
「フォルラーニ侯爵、お久しぶりでございます」
「レイチェルで良い。 相変わらず堅苦しいのね」
レイチェル=フォルラーニ侯爵、年のころは40代半ば、呼び出しを受けた貴族の中で唯一の女性当主。 騎士の家系で当主本人も皇后の護衛騎士をしていた。 長女も王妃の護衛騎士をしている。 美しいプラチナブロンドの髪を結い上げている。 騎士をしているだけあってしなやかだがしっかりした体つきだ。 いつも騎士の鎧を身に着けていたからドレス姿が見慣れない。
「私もお久しぶりですね、アルフォート卿」
「ドルイット侯爵、お久しぶりでございます」
「私もフェリックスで良いんですよ」
フェリックス=ドルイット侯爵、同じく年のころは40代前半、魔道具の家系で、年の割に頭が柔らかく、毎年新しい魔道具を発表している。 氷の魔道具などはドルイット侯爵が若い時に発明したものだ。 淡い黄色の髪色をしており、面差しは優しげだがそれを信じると痛い目に合う。 若者たちがしっぺ返しを食らうのを見るのが毎年のデビュタントで恒例行事となっている。
「恐れ多い……お戯れも過ぎます」
「つれないわね……まぁ、いつまでも立ってないで席に座ったら? まだ他に来ていないしおしゃべりしましょうよ、聞きたいこともあるし」
「そうですね、噂はこちらまで届いてますね。 私にも聞かせてください」
「……私でお答えできる事でしたら」
侯爵二人に促され、名前の置かれた席に腰を下ろす。
呼ばれた人数も少ないせいか座ったままでも会話に支障はない広さだ。
「まずは……そうねぇ。 そう言えばこの間のスタンピードの件聞かせてもらえる? 地竜が出たって聞いたけど」
フォルラーニ侯爵は強い物に目が無いからな。
目が輝いている。
「私も興味ありますね。 こちらにも素材を頂けましたが状態が良い物ばかりでした。 ありがとうございます」
「地竜は下位の物が出ました。 ドルイット侯爵にもお買い上げ頂きありがとう存じます」
「いえいえ、私の方こそお力になれず申し訳ありません」
「私も急いで準備はしたんだけどね、場所が場所だけに間に合わなかったのよね、……地竜かぁ。 戦いたかったわ」
フォルラーニ侯爵領はブリストウ領から王都を挟んで南部の方にある。 馬車で1カ月ほどの距離だ。
確かにフォルラーニの騎士が来てくれていたら助かっただろうが、応援に来るのに1カ月は現実的ではない。
「フォルラーニ侯爵のお気持ちだけ感謝いたします」
「それで、どうやって倒したの? ブリストウの騎士に実力者がいるのかしら?」
「いえいえ、渡り人の強力です。 ブリストウはかの森……ダンジェの近くですから」
「そう……」
渡り人と言う言葉を出すと、フォルラーニ侯爵はさっきまでの勢いがなくなった。
それもそうだ。 渡り人は力自体は弱いが魔力が豊富だ。 地竜を倒すほどの魔力を使用したとなれば後は帰るだけ、会っても意味が無いと捉えたのだろう。
強者と戦いたいフォルラーニ侯爵からしてみれば興ざめと言った所か。
「皆さま、お早いお着きですね」
話をしていると今度はサルヴァトーレ=ミラーリア侯爵が到着したところだった。
代々薬師の家系だ。 歳は40代前半、グレーの髪を撫でつけた細身で長身。 研究熱心なせいでいつも目の下に隈があり覇気がない。 ポーションの改良に精を注いでいる。 事実彼がミラーリア侯爵になってからポーションの効果が上がった。 だが、その病弱そうな面持ちを見ると研究している薬を自分に使用してはいかがかと常々思ってしまう。
「サルヴァトーレ卿は本日も体調が悪そうですね」
「レイチェル卿は本日もお美しいですね」
「……さっさと座りなさい、陛下の御前で倒れられたら迷惑です」
「ご配慮賜り光栄です」
そんなふうに表面上当たり障りなく会話をしていると隣国と領地を接しているグロスター辺境伯、陛下の叔父、ベルゲマン公爵の弟のヴァンドーム公爵、陛下のハトコに当たるリシュルー公爵が到着し、挨拶を済ませると場は静寂に包まれた。
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