上 下
203 / 274
第三章

203話目

しおりを挟む



領主の館にて

陛下達と〝日本〟 に行く少し前


執務室で仕事をしていると来客の知らせが届いた。
来客の到着時間は約束したものより少し前。
メイドに応接室に通してくれと指示をし自分も赴く準備をする。

「待たせたな」

「とんでもございません。 この度は……」

「挨拶はいい、ソファーに座ってくれ」

陛下からの手紙の件で情報を共有すべくオーフェンを呼び出した。

「かしこまりました。 それでは失礼いたします」

メイドにお茶を煎れさせると一緒に従者も退出させた。
長谷川は今廃村に行っている為この部屋には私とオーフェンのみ。

「近頃の市井の様子はどうだ?」

「特にこれと言って問題はありません、むしろスタンピードで取れた素材が売れて、おかげで市場が潤っております。 被害も軽微でしたので」

「はは、それは僥倖だな」

しばし雑談をし互いの近況を報告しあう。

報告が落ち着くとテーブルの上に盗聴防止の魔道具を置き、念のために起動させた。
お茶を一口飲み、

「……陛下から手紙が届いた」

起動させ開口一番笑顔のままそう言えば、

「……手紙……ですか?」

オーフェンは面白いように笑顔のまま固まった。
それはそれとして笑顔から真面目な表情へと切り替え話を進める。

「あぁ、辺境伯以上、つまり上位貴族の当主の呼び出しだ」

「……それは……桜さんの件で、ですか?」

「おそらくな。 この間公爵が現地視察したから……まぁ……結論が出たんだろうな」

「そうですか……大変恐縮ではございますが、アルフォート様の見解をご教授頂けないでしょうか?」

「私か? まぁ……上位貴族を呼び出すと言う事は……桜をこのままこちらの世界に留めておく方向で動いているんだと考えるが、少なくとも秘密裏に囲うとかではなさそうだ」

「秘密裏であれば手紙は不要……と?」

「魔法の秘密を知っている者たちの口を封じればそれも可能だろ」

「そう……ですね」

封じられるのがどこまでなのかは分からないが。
陛下が必要と判断したら即実行されただろう。
私の言葉にオーフェンの喉が鳴る。

「そうしないところを見ると様子見の可能性が高いか」

「様子見ですか」

当主へ桜の魔法が知られた場合のことを考える。

「あぁ、今の上位貴族は渡り人に対してある程度理解を持っている。 特に当主はな……だからまず当主への根回し……だが」

当主達からの質問責めに会いそうだな……
馴染みの者達の顔を思い浮かべてげんなりとする。

「……」

「子息令嬢、特に侯爵家の令嬢に知られたら少しばかり騒がしくなるやも知れない」

「侯爵? 侯爵と言えばフォルラーニ侯爵、ドルイット侯爵、ミラーリア侯爵でしょうか?」

「特にミラーリア家の令嬢が良くない思想に偏りつつある。 あの年代の年頃に陥りがちの一過性の物だと良いのだが」

ミラーリア侯爵家は先代と渡り人の間で確執があったからな。 その影響か、令嬢令息に対する渡り人教育が遅々として進んでないように見受けられる。
特に顕著なのが末の令嬢、フランシス侯爵令嬢だ。
幼いころから天真爛漫で染まりやすい気質の令嬢だと思っていたが、先代と渡り人の関係が響いてしまっているのか、近頃デビュタント以降良くない傾向に向かいつつある。

「噂は多少お聞きしておりますが……心配なさるほどなのでしょうか」

「念の為にな。 領内であれば私も出来る対処はするが……心構えだけしておいてくれ」

呼び出し以降桜にはしばらく廃村にて隠れててもらった方が良さそうだ。
侯爵家はともかく、公爵家から何か言われた場合めんどくさくなりそうだ。

「かしこまりました。 ご配慮ありがとうございます」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。 おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...