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第三章

201話目

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「どうしましたか?」

「……これ、アルコール用のポーションです。 桜さんの分もありますので宜しければどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「沢山飲まれてたようなので……いえ、こちらこそ……ありがとう」

瑠璃さんに手渡されたのは、青色の液体が入ったガラスの小瓶。
アルコール用のポーション? って事はアルコールの解毒剤? あっち産の?!

ポーションって響きだけで効きそう!
すごく嬉しい!!

「そうだ、まだポーションの在庫ありますか?」

「えぇ、いくつか。 サフィリア様もだいぶお召しでしたので」

腕時計を見て時間を確認する。
現在の時間は22時過ぎ。

「流石にこの後でお酒を部屋で飲みませんかとは誘えない時間ですね……」

「サフィリア様も普段でしたらお休みになられる時間ですので」

「でしたらあちらに帰られてから、お城で楽しめるようにお酒を用意しておきますね」

「いえ、そのようなことは……」

「ポーションの替わりです、私ポーションって初めてなんですよ!!」

「そう……なんですか」

「だから今すっごく嬉しいんです、へへー」

「……桜さん今すぐ飲まれた方が宜しいかと思われます」

ヘラヘラと舌っ足らずな口調で言えば、瑠璃さんに困惑した表情でそう言われてしまった。

「そうですか? そうかもしれないですね? でも今すっごく楽しいので勿体ないです」

「……桜はストップ、瑠璃さんありがとう。 サフィリア様が呼んでる。 桜は……ほれ、行くぞ酔っ払い」

私と瑠璃さんの会話に割って入ってきたのは長谷川さんだ。
どうやら私たちは皆からだいぶ遅れてしまったようだ。
長谷川さんが指を指したほうを見れば、レストランの入り口からみんなが出るところだった。
サフィリア様が振り返って瑠璃さんを手招きしているのが見て取れた。
それを見た瑠璃さんは、慌てて長谷川さんにお礼とお辞儀をするとサフィリア様の下に駆け寄っていった。

「長谷川さん? 今日はあまり飲まなかったんですか? ビール美味しくなかったですか?」

私と長谷川さんは早足になりながら会話を続ける。

「ビールは一通り飲んだぞ。 旨かった。 だが、目の前であれだけカクテルがぶ飲みしてるやつがいりゃそりゃあ控えるさ、瑠璃さんから貰ったんだろ? それ飲んで酔い冷ませ」

「勿体ないですよ。 私まだ飲みたいですしそしたら結局酔うじゃないですかー。 オリヴィア様もそれほど飲んでなかったですし、部屋で二次会してそれから飲みます」

「つべこべ言うな酔っ払い、それ以上飲んでどうする、オリヴィア様に迷惑かけんな」

「大丈夫です、酒は飲んでも飲まれるなですよ、自分の飲める量は分かってます、記憶をなくしたこともございません」

「うるせぇ」

「ごふっ」

長谷川に私が持っていた瓶を奪われ蓋が開けられ、問答無用で口に突っ込まれた。
早足になっていたぶん勢いがついて気管に入った。

「ゲホッ――ゲホッ――」

当然咽た。 陸の上に居るのに溺れるかと思った。
咳をしている間にアルコールで靄が掛かった頭がスッっと冷めていく。

「大丈夫か?」

「大丈夫か、じゃないですよ……ん? おお……ポーション凄い」

あっという間に素面になった。

「長谷川さん」

「なんだ?」

「これってどこで売ってます? 私これ買いたいです、常備したいです、これがあればお酒飲み放題じゃないですか」

「アルコール用のポーションは貴族向けが多いから高いぞ」

「そうなんですか?」

平民はわざわざ時間を置けば治るものにお金をかける人が少ないらしい。
貴族だと、アルコールで醜態をさらさないために常備している人が多いのだとか。
だからアルコール用のポーションは貴族向けって認識らしい。 その分味や性能がガラスの見目が良いのだとか。
咽たけど、後味は良かった気がする。

「どんとこいです」

「なら、ほれ」

「はい?」

長谷川さんから手渡されたのは先ほど飲んだアルコール用のポーションだ。

「長谷川さんも持ってたんですか?!」

「そりゃな、酒に飲まれるわけにはいかないからな。 必需品だ」

「……この前酔ってましたよね?」

「まぁな。 その方が話しやすかったろ?」

どや顔する長谷川さん。
あれは確信犯だったのか。

「……ちなみにこれはいくらで売ってもらえるんですか?」

「1000円でいいぞ」

「安っ!! これ高いんじゃないんですか?! 貴族向けですよね?!」

値段を変えられないうちに財布を取り出し1000円を渡した。

「桜に売っておけば飲み放題だろ、むしろ安い」

断言されてしまった。

「……じゃあ後で取り寄せた物で返しますね、言っておきますが取り寄せた物を他で売るなら渡しませんからね」

「分かってるよ、サンキュー」

ははっと笑われた。
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